研究課題/領域番号 |
19K08416
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
水谷 紗弥佳 東京工業大学, 生命理工学院, JSPS特別研究員 (70790278)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 大腸がん / 内視鏡生検 / 腸内細菌 / メタゲノム / メタトランスクリプトーム |
研究実績の概要 |
本研究では、大腸がんの前がん病変であるポリープや粘膜内がんのような小さい病変に局在する細菌の機能を定量的に解析することを目的として、大腸内視鏡生検検体を用いたメタゲノム・メタトランスクリプトーム解析の方法論確立のためのパイロット研究を行う。 第一に、国立がん研究センターで大腸内視鏡下生検により収集済みの9被験者について、回腸末端、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸などの腫瘍部位と正常粘膜の合計59検体のRNA-Seqデータを取得した。データ取得には細菌由来RNAの抽出のための特別な処理は行わなかったため、腸内細菌画分の割合は数千から数万リード(0.01%)のみであった。 便検体とは異なり、組織検体には、ヒト由来の物質が大量に含まれるため、細菌由来のDNA・RNAの取得が困難であり、細菌由来のDNAやRNAを大量に必要とするショットガンメタゲノム解析やメタトランスクリプトーム解析の標準方法は確立されていない。そこで第二に、組織検体から腸内細菌由来DNA・RNA抽出プロトコルの構築を行い、マウスの腸管粘膜で予備実験を行った。マウスの腸管粘膜から全RNAを抽出し、Poly(A)濃縮法によりマウス由来RNAを除外し、細菌由来RNAの取得を試みた。しかしながら、ショットガンシーケンスに十分な量のRNAを取得することは困難であった。 第三に、大腸内視鏡下生検により大腸がん患者から新たに収集したポリープ3検体を用い、ショットガンメタゲノム用のキットを用いてDNA・RNAを取得した。その結果、RNAの品質は十分ではなかったが、DNAは高品質のものが取得できたため、次世代シーケンサによるショットガンメタゲノム解析を行なった。その結果、全シーケンス量の0.5%が細菌由来であり、その中には、大腸がんとの関連があるBacteroides fragilis高い割合で検出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現状のプロトコルでは、内視鏡検体由来のRNA抽出は困難であるが、DNA抽出は可能であることがわかった。これは、RNA分子の不安定さに起因すると考えられる。そのため、今後は、目的をメタトランスクリプトーム解析からメタゲノム解析に切り替え研究を進める。
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今後の研究の推進方策 |
昨年、大腸腫瘍検体由来の腸内細菌DNA抽出プロトコルがNature Methodsをはじめ、複数の研究グループから発表された。本研究でもそれら手法を取り入れ、プロトコルを改変し、マウスの腸管粘膜を用いた予備実験を行う。一方、内視鏡術で切除可能な大腸ポリープは最大でも数センチメートルであり、シーケンスに十分な量のDNAが取得できる保証はない。そこで、対象を大腸がん以外のがん種にも広げ、腫瘍に局在するヒト常在菌の組成を算出する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由 令和5年度は、大腸内視鏡下生検により大腸がん患者から収集したポリープ3検体を用い、ショットガンメタゲノム用のキットを用いてDNAを取得し、大腸がんとの関連があるBacteroides fragilisを検出した。しかしながら、全シーケンス量のうち細菌由来の配列は0.5%にとどまり、依然として低いため、追加の解析には踏み切らなかった。 使用計画 昨年、ヒト組織サンプルから効率的に細菌由来のDNA抽出を行うプロトコルが発表された。それに伴い、本研究でもDNA抽出プロトコルを改変し、令和6年度はマウスの腸管粘膜サンプルを用いて予備実験を行う。
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