研究課題/領域番号 |
19K08419
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
川久保 雅友 信州大学, 学術研究院医学系, 講師 (70397305)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 胃腺粘液 / 糖鎖 / αGlcNAc / 腸内細菌叢 / マウス |
研究実績の概要 |
胃・十二指腸に特異的な腺粘液の腸内細菌叢による宿主への還元機構を実験的に解明するため,今年度は,腺粘液の有無に関連する腸内細菌種の同定,腺粘液要求菌の同定を目的に,腺粘液に特徴的な糖鎖構造であるαGlcNAcを欠損させたマウスおよび野生型マウスの盲腸内容物を採取し,両者の腸内細菌種の同定を試みた.また,胃表層粘液内に生息するピロリ菌に特徴的な糖脂質であるCGL生合成に作用して同菌の増殖を特異的に阻害するコレステノンについて研究成果を得たため,その発表に向け論文を作成し,報告した.今年度の助成金は,主に上記の研究を遂行するための試薬・消耗品費,委託研究費等に当てられた.
1. αGlcNAc欠損マウスおよび野生型マウスの各々の盲腸より採取した内容物より得られた腸内細菌叢の次世代シーケンサを用いた16srRNA配列解析から,糖鎖分解能を有すると報告されている腸内細菌のうちαGlcNAc依存性の腸内細菌の候補として野生型マウス盲腸内においてのみ認められる菌種が同定できた.詳細な関連遺伝子を同定するため,メタクリプトーム解析を行ったところ,野生型マウス盲腸内特異的にαGlcNAc切断活性を有する酵素遺伝子の発現およびその菌種が確認できた.なお,この研究を遂行するにあたって,助成金をマウス標本採取関連,腸内細菌叢解析等の費用に使用した.
2. ピロリ菌は胃腺粘液に特徴的に含まれるαGlcNAcの存在下では生息できないが,コレステロール類似の物質であるコレステノンが,αGlcNAcによるピロリ菌の増殖阻害と同様にピロリ菌が特徴的に有する糖脂質であるCGLの生合成を阻害することによってピロリ菌特異的に抗菌活性を示すことを発見し,新たなピロリ菌除菌法の可能性を見出した.さらに,その成果を発表するために論文を作成した.なお,助成金の一部を用いて追加実験を行い,その成果を論文として発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
他研究論文の査読後の3ヶ月を要する追加動物実験が生じたため,研究スケジュールに若干の遅延が生じた.しかしながら,αGlcNAc依存性の腸内細菌の候補として野生型マウス盲腸内においてのみ認められる菌種が同定できたため,研究の方向性に関しては順調に進捗している.この遅延のため,本年度内に使用予定であった受託研究費用の一部支出が次年度4月上旬にずれ込んだが,解析結果は順調に得られた. 一方,胃腺粘液に特徴的な糖鎖構造であるαGlcNAcと同様にピロリ菌に対して抗菌的に作用するコレステノンに関する研究についてProc Natl Acad Sci U S A誌にて成果として報告した.
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今後の研究の推進方策 |
αGlcNAc欠損マウスおよび野生型マウスの糖鎖代謝に関連した腸内細菌種に明瞭な相違が得られたが,メタクリプトーム解析においておよそ60000配列におよぶ遺伝子候補が同定できていないため,αGlcNAc 分解能を有するGH89 family遺伝子と相同性を有する遺伝子候補について詳細に解析を行う.なお,研究の方向性に変更は生じていないが,マウス前胃にも細菌叢が相違している可能性が示唆されたため,さらに,αGlcNAc欠損マウスおよび野生型マウスの前胃より粘膜表層の細菌叢を採取し菌種の探索についても進めていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
理由: 投稿中の論文の追加実験等により標本採取に遅れが生じたため,令和2年度αGlcNAc代謝に関連する腸内細菌および発現遺伝子の解析に遅延が生じたため,支出予定時期が次年度に初頭にずれ込むこととなった.. 使用計画: 次年度使用額は,令和3年度請求額と合わせてαGlcNAc代謝関連腸内細菌の追加解析および論文投稿等で使用する予定である.
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