近年、癌組織の中に「癌幹細胞」の存在が報告されている。癌幹細胞は静止期(G0期)に存在するため、抗癌剤や放射線照射に対して強い耐性を持ち、治療抵抗性の主因を担っている。従って、静止期に存在する癌幹細胞を通常の細胞周期に誘導できれば、効果的な癌治療に結びつく。血液癌においてはFbw7分子が静止期の維持に重要であることが示されている。しかし、固形癌における静止期の維持に関しては、多くの点が未解明のままである。私たちは、癌細胞の「免疫不全マウスにおける造腫瘍能」を指標に癌幹細胞をスクリーニングした結果、X分子が静止期癌幹細胞の維持に重要であることを見いだした。In vitro解析の結果、X分子高発現癌細胞は冬眠期に誘導され抗癌剤耐性能を獲得していた。興味深いことに、X分子はミトコンドリアを抑制することで、癌細胞を低エネルギー状態に遷移させていることが示唆された。臨床検体を用いてこの現象を免疫染色でスクリーニングしたところ、肝細胞癌症例において、X分子発現癌細胞は明瞭に非増殖期(静止期)であることを突き止めた。 本課題では、肝細胞癌におけるX分子とミトコンドリアのcross-talkを明らかにし、その分子機構の全容を解明する。さらに、この経路を阻害する小分子化合物を同定し、冬眠期癌細胞を目覚めさせ(細胞周期を回転させ)、抗癌剤・放射線治療感受性を向上させることを試みる。以上によって、これまでにない新規の治療ターゲットが明らかとなり、肝細胞癌の新たな治療薬開発の端緒となると考える。 本年度はX分子のノックアウトマウスを用いて、肝細胞癌発癌モデルの検討を引き続き実施した。
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