膵癌の中にはDNA相同組換え修復異常(HRD)を有し、プラチナ製剤やPARP阻害剤の有効なサブグループが存在する。治療前にHRDの存在が確認できれば、患者の治療選択において有用な情報となる。HRDの代表的な原因遺伝子としてはBRCA1、BRCA2遺伝子が知られるが、この他にも種々の遺伝子異常が関連する。近年、HRDを有する腫瘍は全ゲノム、全エクソンシーケンスに基づく変異シグネチャー解析により特有の塩基変異パターン(BRCAシグネチャー)を示すことが報告される。本研究では超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)によって採取した膵癌組織を用い全エクソンシーケンス、変異シグネチャー解析を行い、プラチナ含有レジメンの治療効果との関連を検討し、個別化モデルを構築する。 2022年度も引き続き、FOLFIRINOX療法を行った膵癌患者の検体を対象にダイレクトシーケンス法によるKRAS変異解析を行った。最終的に5例のEUS-FNA検体および末梢血コントロールを用い、全エクソンシーケンスを施行した(合計10検体)。2021年度までに全エクソンシーケンスを行った11例と併せ計16例について検討を行い、KRAS、TP53、CDKN2A、SMAD4、ARID1Aなど膵癌にみられる代表的な遺伝子変化に加え、種々の体細胞変異が検出された。これらの全エクソンシーケンスデータをもとに変異シグネチャー解析を行った。なお、本研究ではプラチナ製剤に対する感受性を培養細胞にて評価することも予定しており、EUS-FNA検体を用いた初代培養の導入を試みた。しかし、EUS-FNA検体を収集可能な患者数は当初の予定よりも少なく、研究の進捗も遅れていたため限られた検体を有効に使用する必要があり、初代培養の併用は困難と考えられ、全エクソンシーケンスを優先して施行した。
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