研究課題/領域番号 |
19K08436
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
藤井 裕美子 旭川医科大学, 医学部, 助教 (30722334)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脂質ホスファターゼ / がん |
研究実績の概要 |
これまでに、ピロリ菌病原因子CagAのチロシンリン酸化依存的な新規結合標的として脂質ホスファターゼSHIP2を特定し、CagAが宿主細胞において細胞膜近傍でSHIP2の酵素活性を亢進することにより、ピロリ菌が接着した細胞膜のホスファチジルイノシトール組成を変化させることを示した。さらに、SHIP2がピロリ菌から宿主細胞内へのCagAの取り込みを亢進することを明らかにし、SHIP2がCagA依存的な発がんを促進することを示した。SHIP2の異常がより直接的に発がんに関与するかを検討するため、肝臓がん患者の検体を用いて免疫組織化学染色を行ったところ、肝細胞がんにおいては分化度が低いものほどSHIP2の発現が低下していることが明らかになった。一方、肝内胆管がんにおいては、正常の胆管細胞に比べて細胞の核でより強いSHIP2発現が観察された。ミリストイル化AKTをハイドロダイナミクスインジェクションによりマウスに導入して形成した肝内胆管がんにおいてもSHIP2の核膜周辺での発現が観察されたことから、今後、肝内胆管がん細胞の核内におけるSHIP2の働きについて明らかにしていきたいと考えている。さらに、肝内胆管がん細胞株HuCCT1において、SHIP2のイノシトールホスファターゼドメイン内のコンセンサス配列に、酵素活性に影響を及ぼし得る点変異を認めたことから、この変異が及ぼすSHIP2酵素活性化能の変化とその細胞への影響についても解析していく。現在、ヒト不死化胆管細胞株をもとに、CRISPR-Cas9システムを用いたSHIP2ノックアウト細胞株の作製を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度までに、本研究課題の主目的であるCagA-SHIP2の結合メカニズムと複合体形成の病態生理学的意義についてを明らかにし、国際紙と国際学会で発表することができた。動物実験に関しては、新型コロナウイルス感染拡大防止に関わる大学のBCPにより新規に開始することができなかったため、次年度から着手する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
肝内胆管細胞株を用いて脂質ホスファターゼSHIP2が核内で果たす役割について解析する。蛍光免疫染色で核内におけるSHIP2の局在を明らかにするとともに、SHIP2過剰発現細胞およびSHIP2ノックアウト細胞を用意して、細胞周期・細胞分裂・遺伝子発現の変化を検討する。また、肝内胆管がん細胞株で観察された変異型SHIP2の発現コンストラクトを用意し、その酵素活性化能および細胞への影響について明らかにする。発がんに関わる可能性についてはin vivoの実験系も用いて解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大防止に関わる大学のBCPにより2020年度中に新規の動物実験を開始することができなかった。また、成果発表のための学会にオンラインで参加したため旅費を使用しなかった。次年度は延期していた動物実験に着手できる見込みであり、本未使用額相当が必要となる。また、本課題申請時と所属が変わり、学会参加の際に以前より移動費がかかることが見込まれるため、未使用額で充填する予定である。
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