B型肝炎・C型肝炎・非アルコール性脂肪肝炎より合計5症例の結節内結節型肝細胞癌を対象とした。乏血性の高分化型肝細胞癌部のゲノムDNAと多血性の中分化型肝細胞癌部のゲノムDNAに対し、同一症例のリンパ球DNAをコントロールとして、合計23サンプルを対象に、Novaseq 6000 Sequencing Systemによる全ゲノムシーケンスを施行した。本研究にて確立した解析アルゴリズムを用いて、塩基置換の数、Mutation signature、染色体構造異常およびHBVゲノムのヒトゲノムへの挿入につき解析を行った。乏血部と多血部のゲノム異常の共通点(Trunk aberration)および相違点(unique aberration)について各症例で比較解析したところ、ヒト肝癌で最も高頻度に認められるTERT遺伝子に関連する異常はすべてtrunk aberrationとして認められることが分かった。TERT遺伝子に関する異常は、promoterのpoint mutationのみならず、染色体転座やHBVゲノム挿入など多岐にわたっていたが、いずれもTERTの高発現を引き起こす変化であり、肝癌のinitiationに関与するイベントと考えられた。一方、unique aberrationとしては、PTENやTP53などの癌関連遺伝子における異常が多数認められたが、症例によって異なっており、肝癌の多血化・悪性化には多様な分子経路の異常が関わっていることが示唆された。また、多血性腫瘍部のmutation signature解析ではDNA修復異常に関連するsignatureが高頻度に認められており、肝癌が進行するにつれてDNA修復異常が顕在化し、それに伴うゲノム異常が出現する可能性が示唆された。
|