膵癌により年間3万9000人が死亡しており、年間の罹患者数と死亡者数が悪性腫瘍の中で最も近接しており、ほぼ同数である。膵癌の5年生存率は5~10%と極めて低い数値である。使用できる膵癌治療薬は限られているため、有望な新規治療薬の開発が臨床の現場で切望されている。研究代表者らは、膵癌細胞の葉状仮足に局在し、浸潤・転移に関わるHOXB7とRUVBL1を独自の研究により同定した。HOXB7とRUVBL1はメッセンジャーRNA (mRNA)の状態で葉状仮足に運ばれ、葉状仮足において局所翻訳されることにより、浸潤・転移を亢進することを明らかにした。葉状仮足におけるHOXB7とRUVBL1の局所翻訳を抑制することができれば、膵癌細胞の浸潤を減少させ、遠隔転移を防ぐことができるかもしれない。研究代表者らは、細胞実験によりHOXB7とRUVBL1をほぼ100%ノックダウンすることのできるRNA干渉の一つであるsmall interfering RNA(siRNA)の配列をそれぞれ同定した。本研究では、ヒト膵癌細胞株をマウス膵臓に移植した膵癌浸潤転移マウスモデルを用いて以下の実験を行った。 ・ナノ化合物を付加したHOXB7とRUVBL1に対するsiRNAが、膵癌細胞まで効率よく輸送されるかの検討を行った。 本研究においてナノ化合物を付加したsiRNAがマウス膵臓に形成されたヒト膵癌組織までデリバリーされることを確認できた。
|