腸内環境からみた新たな肝疾患治療戦略の科学的根拠を見出すことを目的に、食道静脈瘤の内視鏡治療時に、静脈瘤内の血液(いわゆる門脈血)を計28例より採取した。また、内視鏡治療前に糞便を採取し、便中DNA抽出ならびに細菌 16S rRNA遺伝子をターゲットにMiSeqを用いた次世代シークエンサー(NGS)による細菌叢を解析した。独自の方法により採取した門脈血についても、NGSによる腸内細菌叢メタゲノム解析を行った。これまでの結果では、約半数の症例に門脈血流内に細菌DNAが検出され、さらに同じ症例における門脈血液内と糞便中に検出される細菌叢は同一ではないことが明らかとなった。したがって、閉鎖系である腸肝循環に流入する細菌は受動的に侵入するのではなく、選択的に門脈血液内に細菌が流入している可能性が示唆された。現在までに得られた結果では、肝疾患を有する糞便中の細菌叢は、既報のごとくアルコール性肝疾患と非アルコール性脂肪性肝炎患者ではBacteroides門が優位であったこと、さらに門脈血中に検出した細菌叢は、糞便中の細菌叢とは異なりProteobacteria門が優位であったことを見出した。しかしながら、同一疾患であっても症例ごとにより門脈血液内に検出される細菌種は異なり、一貫した傾向はつかめず疾患との明らかな関連性は見い出せなかった。そこで、現在は門脈血流内の細菌検出について、細菌の流入門戸である腸管上皮の結合に注目し検討を続けており、リーキーガット(Leaky Gut)のサロゲートマーカーとされるゾヌリンのELISA測定を追加検討している。
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