研究課題/領域番号 |
19K08452
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
森 健太郎 金沢医科大学, 医学部, 助教 (50397296)
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研究分担者 |
黒岡 尚徳 相模女子大学, 栄養科学部, 教授 (00293879)
中村 ハルミ 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所), その他部局等, 病理・細胞診断科医長 (80164325)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 転写因子 / 発生分化 / 上皮 / がん |
研究実績の概要 |
食道、胃、小腸や大腸などの内腔を覆う上皮管腔組織は、組織特異的な細胞で構成され、領域特異的な機能と形態を持ち、体内外の隔絶と消化吸収といった生体の維持に必須の役割を果たしている。そうした領域特異的消化管上皮の発生は、内胚葉が前後軸に沿った消化管原基が緻密に制御された遺伝子発現とそれに引き続く細胞分化により進行していく。そうした消化管原基からの領域化形成過程では、他の領域への分化阻害が重要であることが判明している。本研究では上皮形成過程で発現する抑制性転写調節因子Id2およびその制御標的因子Irx3/5に着目し、その発現調節メカニズム及び機能解析により領域化形成の分子基盤を明らかにすることを目的とした。 本年度は研究計画の実施に加え、研究実施環境のセットアップも行った。研究実績として前腸内胚葉因子の発現についてマイクロアレイ法によるId2欠損マウスの中腸内胚葉の遺伝子発現プロファイルについて、遺伝子発現データベースを用いた分析を実施し、これまで判明していたIrx3/5遺伝子に加えて、様々な細胞分化の運命決定因子に機能することが知られているSoxファミリー遺伝子の1つ、Sox21が未分化内胚葉から食道や胃上皮への分化に深く関わっていることが判明した。これらの結果は抑制制御が消化管上皮の領域化形成機構において重要な役割を果たしていることを示すものであり、そのメカニズムの解明は異所性上皮の形成機序を理解する上でも重要な知見をもたらすことを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(計画1)Irx3/5前腸内胚葉特異的エンハンサーを同定するにあたり、これまでに検出していた数10箇所の候補領域からの3Cアッセイによるスクリーニングは非特異的な結合が想定された.その一方、胎児組織の転写調節領域の同定に関して米国の研究グループによりATAC-seq法による報告が相次ぎ、細胞数が少ない条件でも解析できる点は本研究においても有効と判断し、同法による検討を行うことにした。方法としてはId2欠損マウス中腸と野生型マウス中腸より、セルソーターを用いて単離した内胚葉特異的マーカーEpCAM(CD326)陽性細胞より核抽出・DNA調整を行い、ATAC-seqによりサンプル間でのIrx3/5遺伝子近傍のクロマチン構造の比較を行う。現在、細胞分離の条件が整いつつあり、条件設定の完成次第ATAC-Seqを実施する。 (計画2)当初予定していたIrx3/5二重欠損マウスの作出および胃上皮の解析については、マウスの供与を予定していた研究グループ側に生じた予定外の問題により中座している状況である。その一方、Irx3/5の抑制性転写調節に関わる構造的解析を行い、Irx因子の転写抑制に必須のドメインを同定した。 (計画3)研究代表者と研究分担者の所属機関におけるヒト検体を用いた解析のための倫理審査手続き、および使用抗体の調整を含む準備が完了し、検体解析を開始した。予定外ではあったが、より多くの検体の解析が可能になる組織マイクロアレイが利用できることになり、予定していた保存検体に加え、実施する準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画を進める過程で、当初予定にしていなかったATAC-seq法によるIrx3/5転写調節領域の検討(計画1)や組織マイクロアレイによる多数ヒト検体解析についても実施する(計画3)ことになったが、計画達成する上ではより実効性のある修正であり、その結果も期待できるものである。その一方Irx3/5遺伝子の上皮形成における機能を明らかにする上では、Irx3/5二重欠損マウスの表現型解析は重要な検討項目であるが、予定していたマウスの導入が予定通りに進まなくなったため、実施計画の修正を余儀なくされている状況である。これに関しては本年度同様、予定していたin vitroの解析を先行して行い、引き続きマウスの導入に向けた解決策を模索していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していたマウスの導入が一部遅れる見込みになったため、その導入にかかる費用分について差額が生じた。
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