まずヒトiPS細胞から腸管上皮細胞へ分化誘導し、創薬研究などに用いる十分な腸管上皮細胞(human iPS derived intestinal epithelial cells: hiPS-IECs)を作製できるか検討した。健常人の血液を採取し、血球細胞からヒトiPS細胞を作製した。このヒトiPS細胞からサイトカインとシグナル伝達経路阻害薬を用いて胚体内胚葉への分化を誘導し、三次元培養法にてhiPS-IECsを誘導した。この際、既報の誘導法を一部改良し、分化誘導の効率化を図った。PCR法および免疫染色法にて腸管上皮細胞マーカーの発現を解析したところ、hiPS-IECsは小腸の腸管上皮細胞マーカーを発現していた。また免疫組織染色にてhiPS-IECsの細胞表面にはE-cadherin、β-catenin、claudin4といった細胞接着分子が発現していた。さらにhiPS-IECsにはToll-like receptor4、5および炎症性サイトカインレセプター遺伝子(IL1R1、IL6R、TNFRSF1A、TNFRSF1B)が発現しており、同受容体の刺激にてPCR法で炎症性サイトカイン遺伝子発現の上昇を認めた。次にヒトiPS細胞を用いたIBD疾患モデリングとして、CRISPRiを用いhiPS-IECsにてIBD関連遺伝子であるオートファジー関連遺伝子ATG16L1を抑制した。ATPおよびLPS刺激にてIL-1β、IL-8の発現が著明に上昇しており、オートファジー抑制によるインフラマソーム経路の活性化が示唆された。 本研究ではヒトiPS細胞から腸管上皮細胞へ分化誘導法を確立し、さらに炎症性腸疾患モデルを作製した。従来のマウス等の動物を用いた腸炎モデルと異なり、ヒトの組織に由来する腸管炎症のモデルを用いることで、今後、創薬研究や病態メカニズムの解明に繋がることが期待される。
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