研究課題
消化管粘膜は、幹細胞から上皮細胞が新しく供給されることによりその恒常性が保たれている。胃・腸では幹細胞マーカーであるLgr5、Bmi1等が同定されており、幹細胞のheterogeneityと共にそれらの機能の詳細な解明が進んでいる。これに対し、食道粘膜では基底部に存在する基底細胞が、非角化重層扁平上皮細胞に分化しながら管腔側へと移動することが知られているが、胃や腸の幹細胞に相当する細胞が存在するか、その特異的分子マーカーの同定も含めて詳細は明らかにされていない。本研究において、我々が見出したヒト基底細胞に限局して発現する分子群のうち、グルタチオンS-転移酵素ωクラスに属するGSTO2に着目し、幹細胞機能への寄与解明を試みた。初年度は組織学的検討により、ヒト食道基底細胞はKi67増殖マーカー陽性の細胞と陰性の細胞が存在するヘテロな集団であること、GSTO2はKi67陽性基底細胞の下層に位置する、Ki67陰性の基底細胞に限局して発現することを見出した。さらにGSTO2をヒト扁平上皮癌細胞株KYSE30およびKYSE70に強制発現させ、細胞機能に及ぼす影響を評価した。GSTO2発現は細胞増殖能、コロニーフォーメーション能、in vivoでの造腫瘍能・増殖能を有意に低下させた。加えて、GSTO発現は上皮細胞分化マーカーであるE-カドヘリンの発現を抑制した。GSTO発現は細胞シグナル分子p38のリン酸化を亢進すること、p38阻害剤処理によりGSTO2強制発現細胞におけるE-カドヘリンの発現が回復したことから、GSTO2によるE-カドヘリン発現抑制はp38活性化を介していることが明らかになった。以上より、Ki67陰性基底細胞に限局して発現するGSTO2は上皮細胞の増殖と分化を抑制する機能を有しており、幹細胞において重要な役割を果たしている可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
今年度は主にヒト細胞株を用いた検討により、Ki67増殖マーカー陰性の所謂dormant幹細胞に限局して発現する分子の機能解析を行った。初年度の成果として、幹細胞機能維持に重要な上皮細胞の増殖・分化抑制能を示すことができ、研究は順調に進展している。
申請者がヒト基底細胞に限局して発現する分子として着目したGSTO2は細胞表面に発現が認められなかった。当該分子を発現する細胞を分離・解析するために、現在、CRISPR/Cas9システムを用いてレポーターマウスを作製中である。今後は作製したレポーターマウスを用いて幹細胞機能を評価を進める予定である。
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Carcinogenesis
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10.1093/carcin/bgz189