p62およびNrf2遺伝子二重欠失(DKO)マウスは,高脂肪食摂餌で重症NASHと,39%に肝癌を発症した.DKOマウスをベースに,肝細胞,脂肪細胞またはマクロファージにのみp62を発現する組織細胞特異的p62レスキューマウスを作製した.肝細胞のp62レスキューはNASHの炎症線維化を抑制し,肝癌の発症を14%に低下させた.ヒトNASH肝癌臨床標本についてNRF2とKEAP1の免疫染色を行い,患者情報との相関解析を行った.非癌部のNRF2の染色強度と核への局在は,肝炎症,線維化と関連したが,KEAP1の発現強度はそれらと相関せず,また,NRF2の発現との関連も認められなかった.癌部のNRF2発現強度と局在は,病理学的悪性度や大きさと相関しなかった.p62およびNrf2はNASH進展と肝癌発症に対して防御的に機能すると推測された. 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は,単純性脂肪肝から発生し,肝硬変,肝癌へ進行する致死的疾患である.しかし,その発症機序は完全には解明されておらず,NASH進行および肝癌発生を阻止するための薬物治療も確立していない.本研究は,DKOマウスに高脂肪食を摂餌させることにより,ヒトNASHおよび肝癌に類似する新規モデルを作製し,NASH肝発癌のメカニズムにp62やNrf2が関与する可能性を示唆し,今後の肝癌発症機序の解明に寄与すると考えられる.また,基礎と臨床の両面から,肝細胞のp62とNrf2がNASHと肝癌に対して防御的な役割を果たすことを見出したことにより,これらの分子が新しいNASHの治療標的と成り得る可能性を示した点で,将来的なNASH治療開発のための研究として意義が大きい.
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