研究課題
非乳頭部十二指腸腺腫・早期癌 107病変を対象とした。これらの病変を、組織学的に小腸型腫瘍100病変と胃型腫瘍7病変に分類し、さらに小腸型腫瘍を小腸型腺腫、小腸型粘膜内癌に、胃型腫瘍を幽門腺腺腫、胃型粘膜内癌に細分類した。DNA抽出後、全107病変についてバイサルファイト・パイロシーケンス法を用いて、ゲノムワイドなメチル化であるCpG island methylator phenotype(CIMP)の有無の検討を行った。また、十二指腸腺腫や(十二指腸進行癌を含む)小腸進行癌において変異が報告されている遺伝子を含む、75の候補遺伝子を探索するカスタムパネルを作成し、102病変についてターゲットシーケンスによる遺伝子変異解析と、コピー数変化の解析を行った。さらに、βカテニンの核内蓄積の有無について、免疫組織化学で検討を行った。小腸型腫瘍と胃型腫瘍には臨床病理学的、分子学的に明らかな違いがあり、非乳頭部十二指腸癌には少なくとも2つの発癌経路が存在することが示唆された。小腸型腫瘍において、癌関連遺伝子のメチル化レベルは腺腫や正常粘膜と比較して粘膜内癌で有意に高かった。遺伝子変異はAPCに最も高頻度であり(55%)、次いでKRAS(13%)、LRP1B(10%)、GNAS(8%)、RNF43(6%)に変異が認められた。KRAS遺伝子変異は腺腫と比較して粘膜内癌で高頻度であった。βカテニンの核内集積は85%に、またWNTシグナル関連経路の変異は59%にみられ、腺腫形成におけるWNTシグナル経路の重要性が示された。さらに、従来の小腸癌における報告よりも、早期病変におけるAPC遺伝子変異が高頻度であったこと、また、腺腫と粘膜内癌ではAPC遺伝子変異の分布が異なっていたことより、十二指腸の発癌において多段階発癌の関与は限定的であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
共同研究機関との連携も良好であり、症例の集積、DNA抽出、シーケンス解析、遺伝子メチル化解析、βカテニンの免疫組織化学に関して、問題なく行うことが可能であった。得られた結果を、2020年の日本癌学会総会で口頭発表し、Journal of Pathologyに論文として発表した。
今後、得られた分子学的データと、免疫組織化学を含めた病理学的所見や狭帯域光観察(narrow band imaging, NBI)を併用した拡大観察を含めた内視鏡所見との関連を探索することにより、腺腫から癌への進展を予測する内視鏡診断体系を確立する。また、本研究で重要と考えられたEGFR受容体とEGFR経路関連分子に関して、進行癌も含め検討を行う予定である。
コロナウイルス感染症のため、旅費が不要となったため。新たな変異解析に用いる予定である。
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The Journal of Pathology
巻: 252 ページ: 330~342
10.1002/path.5529