研究課題/領域番号 |
19K08465
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
清水 雅仁 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 教授 (90402198)
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研究分担者 |
白上 洋平 岐阜大学, 医学部附属病院, 助教 (50632816)
白木 亮 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 招へい教員 (60402195)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | サルコぺニア / 慢性肝疾患 / 肥満 / 肝発癌 / 骨格筋 |
研究実績の概要 |
サルコペニア(骨格筋量と筋力の低下)は、慢性肝疾患患者の予後やQOLを悪化させる。また肥満や内臓脂肪の増加は、肝発癌のリスク因子である。本研究は、体組成の違いによって惹起される様々な分子異常が慢性肝疾患、特に肝硬変の病態(肝性脳症などの合併症)に及ぼす影響を明らかにすることで、体組成解析を基盤とする同病態に対する新規かつ包括的な治療法や診断法を開発することを目標とする。本年度の研究実績を以下に示す。 治療開始前のサルコペニア、治療開始後早期の骨格筋量の減少および皮下脂肪量の減少が、ソラフェニブ投与肝細胞癌(HCC)患者の予後規定因子であることを報告した(Cancers. 2020)。内臓脂肪量とインスリン抵抗性が、非B非C型HCC(NASH肝癌を含む)根治的治療後再発の予測因子であることを明らかにした(Cancers. 2021)。肥満や内臓脂肪の増加はインスリン抵抗性と密接に関連しており、非B非C型を含むHCCの発症・再発を抑制する上で注意すべき病態であることを臨床研究で明らかにした。 基礎研究では、トリプトファン代謝経路が、サルコペニアの予防や治療のための有用な標的である可能性を明らかにした(Nutrients. 2020)。 肝硬変に関する研究結果として、低亜鉛血症が不顕性脳症から顕性脳症への移行予測因子であること、また不顕性脳症患者の予後を規定することを報告した(Hepatol Res. 2020)。多施設共同研究にて、不顕性脳症の診断におけるStroop testのcut-off値を明らかにした(Hepatol Res. 2021)。これまでの肝硬変に関する臨床研究の結果が評価され、2020年10月に改訂された「肝硬変診療ガイドライン2020(改訂第3版、日本消化器病学会・日本肝臓学会編)」の策定に携わったことを申し添える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床研究に関しては、当院および関連病院で構築されている慢性肝疾患・肝硬変患者データベース(DB)の拡充・解析を行うことで、順調に進んでいる(継続して論文報告を行っている)。特に脂肪に関しては、内臓脂肪と皮下脂肪に分けて解析することで、解析の深化が進んでいる。また研究対象を肝疾患領域以外にも発展させることで、幾つか興味深い知見を得ることもできている。具体的には、化学療法(mFOLFIRINOX)を施行した切除不能進行膵癌患者おいて、同治療開始後早期の骨格筋量の減少が予後を規定することを報告した(Br J Nutr. 2021)。 現在、骨格筋と脂肪に加え、骨代謝に関するデータ集積(骨折リスク、骨密度、海綿骨構造指標、ビタミンDなど)も順調に進んでいる。肝・骨格筋・(内臓・皮下)脂肪・骨が形成する臓器連環に基づいた慢性肝疾患の病態解析を行い、肝硬変と「sarcopenia」、「adipopenia」、「osteopenia」の基盤研究を進めることで、本研究のテーマである「慢性肝疾患患者の包括的治療戦略」の開発が期待できる。「肝硬変診療ガイドライン」や「肝疾患におけるサルコペニア判定基準」の改定にも寄与するDBとして、引き続き充実をはかる。 基礎研究に関しては、老化促進マウス(SAMP)を用いて「新規肝硬変サルコペニアモデル」を作成することに成功した。同モデルを詳細に解析することで、肝硬変・肝不全・肝発癌とサルコペニアの発症・進行における「老化」の役割が明らかになることも期待できる。同モデルの脂肪および骨に関するデータ解析も進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
臨床研究に関しては、引き続き慢性肝疾患・肝硬変患者DBを拡充・解析することで、(肥満合併)肝硬変サルコペニアやHCC患者の予後やQOL、さらには病態を規定する新規biomarker・臨床的因子を探索していく。特にサルコペニア肥満やNASH肝硬変患者の病態に着目して、解析をすすめていく。QOLに関しては、不顕性脳症や骨病変(骨折・骨粗鬆症など)を中心に関する解析を進める。また基礎研究でスクリーニングされた分子異常が、同DBの保存臨床検体でも観察されるか比較検討する。肝硬変治療薬、特に肝性脳症の治療薬(BCAA、リファキシミン、カルニチン、亜鉛など)やHCCの化学療法が骨格筋量や握力、脂肪量に及ぼす影響も検討する。脳症の治療効果に関してはStroop testを用い、今回の研究結果のvalidationを行う。肝硬変サルコペニアに対し有効性が期待される薬剤に関しては、長期効果および候補biomarkerの推移を観察するための前向き臨床介入試験の準備を進める。さらに、肝疾患を対象にして得られたこれらの知見・解析システムを、他の消化器疾患(消化管、胆膵疾患など)研究にも応用していく。 基礎研究に関しては、特にSAMP/NASH誘発食による「新規肝硬変サルコペニアモデル」の骨格筋、肝、脂肪におけるメタボローム解析や各種array解析をすすめ、(肥満合併)肝硬変サルコペニアの発症・進展を制御する候補分子を探索し、発現の変化が認められた分子に関しては機能解析を行う(特に今回の実験の結果に基づき、トリプトファン代謝経路に注目していく)。さらに動物モデルや培養モデルに対してBCAA製剤や肝硬変の新規治療薬、生活習慣病治療薬の投与・処理を行い、標的分子の発現・変化・機能に影響が認められるか検討する。基礎研究の成果に関しては、臨床DBに速やかにfeedbackする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)動物実験に関しては、来年度より保存サンプルの本格的な解析(メタボローム解析や各種array解析等)を行うため、実験器具・試薬の大幅な購入費および検査費の増加が予想される。従って翌年度への繰り越しが生じた。 (使用計画) 主な支出として実験器具・試薬の購入が考えられる。また研究成果発表のため、国内外の学会へ参加する際の旅費、さらには論文作成費の増加が考えられる。
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