研究課題/領域番号 |
19K08466
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
大澤 恵 浜松医科大学, 医学部附属病院, 講師 (10397391)
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研究分担者 |
杉本 健 浜松医科大学, 医学部, 准教授 (20529507)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | サイトメガロウイルス / 潰瘍性大腸炎 / 薬剤耐性遺伝子 / UL-97 / gancyclovir / CMV腸炎 |
研究実績の概要 |
治療抵抗性の潰瘍性大腸炎の原因の一つに腸管サイトメガロウイルス(CMV)の再活性化に伴うCMV腸炎合併がある。的確な診断のもと重症例では抗ウイルス療法が必要となるが、これまでgancyclovir耐性株に代表される薬剤耐性CMV診断の試みがなく、潰瘍性大腸炎患者における薬剤耐性CMV感染率は未だ不明である。本研究ではゲノム解析により本邦での薬剤耐性CMV感染頻度を明らかにし、かつ、糞便検体を用いた約30分で検査結果を提供できる簡便なPCR法による迅速SNP解析検査にて腸管の薬剤耐性CMV感染を診断できる新たな検査法を開発し、抗ウイルス薬選択のオーダーメイド化を臨床応用することを目的とする。初年度は、CMVのgancyclovir耐性に関係するUL-97遺伝子をターゲットとするPCR用のプライマーを作成した。予備的実験としてwild-typeのgancyclovir感受性株であるTowne株をコントロールとしてPCRの条件設定を行った。さらに、臨床的にCMV腸炎合併と診断した15症例の潰瘍性大腸炎と、比較検討のため7症例の非潰瘍性大腸炎患者のCMV腸炎を研究対象として登録し、gancyclovir耐性株として報告されているUL97遺伝子変異についてを検討した。患者から採取された生検組織の検体から抽出したDNAをテンプレートとして、サンガー法によるDNAシーケンスにより行った。全22症例での解析ではT75A (95.5%)、Q126L (86.4%)、D605E (86.4%) などの変異を認めたが、薬剤耐性に関わると報告されている変異は同定されなかった。また、これらの結果は潰瘍性大腸炎患者と非潰瘍性大腸炎患者では差を認めなかった。本研究の成果は、日本消化器病学会および米国消化器病学会にて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回のサンガー法によるDNAシーケンスの検討では、潰瘍性大腸炎の患者に合併したCMV再活性化でgancyclovirの薬剤耐性に関わるとされている遺伝子であるUL-97に、いくつかの遺伝子変異を同定できた。しかしながらいずれも薬剤耐性に関与する変異としては報告のないものであった。この理由としては、今回検討した22症例はすべてgancyclovirのナイーブ症例であったことが関連している可能性があると推察された。このことは、逆に潰瘍性大腸炎におけるCMV再活性化においては、gancyclovirの薬剤耐性は初回投与時には考慮する必要がないことを示しており、臨床的には一定の意義がある結果と判断している。本研究では、本邦の潰瘍性大腸炎患者におけるCMV感染について、薬剤耐性CMV株の頻度およびその変異株の種類を初めて明らかにすることである。これは疫学dataを提供するのみならず、抗ウイルス剤使用に対して今後の薬剤耐性CMV出現のサーベイランスを行うこともできる点で意義がある。CMV感染はHIV患者、臓器移植患者などですでに重要な問題となっており、本邦の実臨床の患者での貴重なdataが得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果を論文化するとともに、今後はgancyclovir投与後にUL-97遺伝子の薬剤耐性変異株が出現する可能性についてをさらに検討したいと考えている。 また、より高感度である次世代シーケンサーを使用したUL-97遺伝子変異についても検討を進めることを予定している。さらに、糞便検体を用いてCMV再活性化とUL-97遺伝子の薬剤耐性変異株の両者の同定が可能となることが理想的であり、これらの実現を目指してさらに研究を前進させたいと考えている。
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