研究課題/領域番号 |
19K08470
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
松本 健一 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 教授 (30202328)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | テネイシンX / 肝線維化 / 高リンカルシウム脂肪食 / TGF-β |
研究実績の概要 |
我々は以前に、マウスに高リン・高カルシウム・高脂肪食(高リンカルシウム脂肪食)を与え、肝障害を調べたところ、テネイシンX(TNX)欠損マウスに比べ野生型マウスにおいて、肝障害、肝線維化が亢進していることを組織学的に明らかにした。このことより、TNXが肝線維化の発症や増悪化に関与するECMの一つであることが明らかとなった。 本研究では、TNXによるTGF-βの発現及び活性化の亢進と、それに伴う肝星細胞の活性化による肝線維化の促進機構を明らかにする。そこで我々はまず、マウスに高リンカルシウム脂肪食餌を与え、TNX欠損マウスに比べ野生型マウスの肝臓において、静止型肝星細胞から筋線維芽細胞への形質転換に関与するTGF-βや、筋線維芽細胞の指標となるα-平滑筋アクチン(α-SMA)や、線維化の指標となるI型コラーゲンα2鎖(ColIa2)や、炎症系サイトカインTNF-αやケモカインMCP-1の発現量を、qPCR法により定量した。その結果、TGF-β、ColIa2、TNF-α、MCP-1の遺伝子発現は、高リンカルシウム脂肪食餌野生型マウスの肝臓において、高リンカルシウム脂肪食餌TNX欠損マウスのそれに比べ、有意に高いことが明らかとなった。興味深いことに、α-SMAにおいては、普通食餌TNX欠損マウスの肝臓における発現が、他のグループ(普通食餌野生型マウス、高リンカルシウム脂肪食餌野生型マウス、高リンカルシウム脂肪食餌TNX欠損マウス)より有意に高いことが明らかとなった。 次に、TNXによる潜在型TGF-βの活性型TGF-βへの活性化機構の解析に用いるヒトTNXのフィブリノーゲンドメイン(hTNX-FG)、そのドメインの前半部(hTNX-FGF)、そのドメインの後半部(hTNX-FGL)の発現ベクターへのクローニングを行い、動物細胞での発現を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスに高リンカルシウム脂肪食を与え、TNX欠損マウスに比べ野生型マウスの肝臓において、炎症、肝線維化の亢進を、生化学的手法を用いて明らかにすることができた。また、高リンカルシウム脂肪食負荷により、TNXの発現量の亢進を確認した。 次に、TNXによる潜在型から活性型へのTGF-βの活性化を調べるために、ヒト肝星細胞不死化細胞株であるLX2細胞を購入した。また、TNXの受容体であり、また潜在型TGF-βの活性化に関与することが予想されるヒトIntegrin alpha11(hITGA11)の発現ベクターを他の研究グループより供与を受けた。まず、LX2細胞におけるin vitro線維化を定量化するために、α-SMA遺伝子とColIa2遺伝子のqPCR法による発現定量系を構築した。その実験系を用いて、組換え体活性型TGF-β(市販品)をLX2細胞へ添加すると、in vitro線維化が誘導された。次に、LX2細胞においてhITGA11を強制発現させたところ、細胞に内在的に存在するIntegrin beta1とほぼ等量の発現が見られ、これにより細胞膜上でTNXの受容体となり得るIntegrin alpha11 beta1の構築が推測された。 これまでのところ、hTNX-FG、hITGA11、組換え体潜在型TGF-βを用いて、LX2細胞のin vitro線維化を引き起こす実験系を検討した。まず無血清下での組換え体hTNX-FG(市販品)と組換え体潜在型TGF-β(市販品)を、LX2細胞へ添加したところ、LX2細胞のin vitro線維化を誘導することはできなかった。次に、無血清下でLX-2細胞内でのhITGA11の強制発現と、組換え体hTNX-FGと組換え体潜在型TGF-βの添加を試みたが、同様にLX2細胞のin vitro線維化を誘導することはできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、hTNX-FGによるLX2細胞のin vitro線維化を引き起こす実験系の構築を目指す。まず、無血清下でのTNX-FGと hITGA11の強制発現と、組換え体潜在型TGF-β(市販品)の添加を行い、LX2細胞のin vitro線維化を引き起こすことができるか否か検討する。また、0.5%血清存在下でのTNX-FGと hITGA11の強制発現を行い、一方潜在型TGF-βは内在性のものを用いて、LX2細胞のin vitro線維化が起こるか否かを検討する。さらには、上記の実験系において、TNX-FGの代わりに、FG領域の一部の領域であるTNX-FGF(TNX-FGの前半部)やTNX-FGL(TNX-FGの後半部)を用いてLX2細胞のin vitro線維化を誘導できるかを調べる。さらに、更なるTNX-FG領域の欠失クローンの作製を行ない、in vitro線維化に必要な領域を絞り込む。また、各アッセイ時に内在性の活性型TGF-β量及び潜在型TGF-β量を、ELISAキットにより測定する。 最終的にin vitro線維化に関与するTNX-FG領域をペプチドレベルまで絞り込んだ後その配列を合成し、その合成ペプチド(TNXペプチド)が、in vitro線維化を引き起こすか否かを調べる。上記で同定したTNXペプチドと相互作用する、潜在型TGF-βの領域 [特に相互作用が予想されるのはLatency-associated peptide(LAP)領域] 由来のペプチドを同定するために、潜在型TGF-βを短い領域にサブクローニングを行い、発現ベクターに組み込み発現させ、TNXペプチドとの結合を生化学的実験により調べる。さらに、同定した潜在型TGF-β由来のペプチドを合成し、それをin vitro線維化系に添加し、in vitro線維化が阻害されるか否かを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本年度は、LX2細胞を用いてのin vitro線維化の実験において、α-SMA遺伝子とColIa2遺伝子のqPCR法による発現定量により、細胞線維化の程度を検討してきたため、TGF-β ELISAキットによる内在性の活性型TGF-β量及び潜在型TGF-β量の測定を行わなかった。そのため、TGF-β ELISAキットを購入しなかったため、消耗品費の使用額を抑えることができた。次年度に、TGF-β ELISAキットを購入しTGF-β量の測定をする予定である。 (使用計画)生化学実験用試薬、抗体、TGF-β定量ELISAキット、組換え体タンパク質、染色用試薬、細胞培養用試薬、ディスポーザブルチューブ・チップ・ガラス器具等の消耗品の購入に充てる。また、動物実験に必要な器具や試薬の購入、TNX欠損マウスの維持・繁殖に必要な経費 、C57BL/6J野生型マウスの購入、マウス用高脂肪食餌の購入等に充てる。
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