研究課題
我々は、Rab7ノックアウト(KO)マウスを用いて、Rab7がオートファジーに関与していること、実験的急性膵炎モデルにおいてRab7が存在しないとオートファジー不全が高じ、膵炎が増悪することを明らかにした(Scientific Reports 2017)。しかし、実験的膵炎の中でもセルレイン膵炎を発症させた時にのみ、膵内でトリプシンが爆発的に活性化する現象はまだ説明できていない。Rab7はオートファジー以外にもエンドサイトーシスにも関与していることが知られている。そこで、我々はRab7がエキソサイトーシスにも関与しているのではないかと仮説を立てた。セルレインはコレシストキニン(CCK)のアナログであり、過剰の分泌刺激を与えることでセルレイン膵炎が発症するからである。本年度の研究で以下を明らかにすることができた。①Rab7は酵素顆粒膜上に存在する:免疫染色によりRab7は腺房細胞内でアミラーゼと局在が一致した。超遠心により酵素顆粒を分画したウエスタンブロットにより、Rab7は酵素顆粒にも存在することが明らかとなった。②Rab7は調節性外分泌には影響を及ぼさない:単離腺房細胞を用いて、CCK刺激によるアミラーゼ分泌を検討した。コントロールマウスとRab7KOマウスでは差はみられなかった。③Rab7は酵素顆粒の成熟に影響を及ぼす:電子顕微鏡でコントロールマウスとRab7KOマウスの腺房細胞を観察すると、Rab7KOマウスの腺房細胞の酵素顆粒は径が明らかに小さく、成熟過程に障害がみられた。以上の結果から、Rab7は酵素顆粒膜上に存在し、調節性外分泌には影響しないが、酵素顆粒の成熟過程で何らかの働きをしていると考えられた。未成熟な酵素顆粒に過剰な分泌刺激が加わると異常なトリプシン活性化が腺房細胞内で生ずることが予想される。次年度はこの過程の検討を進めてゆく。
2: おおむね順調に進展している
Rab7がオートファジー経路だけではなく、酵素顆粒の膜上にも存在し、その成熟に関与していることを示すことが出来たのは大きな収穫であり、予定どおり進捗している。本年度もマウスを用いて研究を進めていくが、マウスでの検証がうまく進まない場合は、腺房細胞のin vitroモデルであるAR42J細胞を利用して、Rab7過剰発現細胞、Rab7ノックダウン細胞を樹立し、マウスでみられる異常がin vitroでも再現されるかを検討する。AR42J細胞はプラスミドでの遺伝子導入は困難であるが、レトロウイルスによって導入し、sortingすることで効率よく過剰発現細胞、ノックダウン細胞を樹立することが可能である(Mashima H et al. BBRC2020, in press)。培養液中からFCSを除去した細胞スターベーション状況や高濃度コレシストキニンによるin vitro急性膵炎モデルなどにおいて、in vivo実験と同様に、細胞内オートファジー動態、細胞内トリプシン活性上昇の有無、および細胞壊死につき解析し、rab7蛋白の膵腺房細胞オートファジー機構での機能ならびに急性膵炎への関わりを検討する。
今後は①未熟な酵素顆粒内でアミラーゼやトリプシノーゲンに量的、質的な変化が生じているかどうか。②絶食によりオートファジーを誘導した際や実験的急性膵炎モデル(セルレイン膵炎、L-アルギニン膵炎)において酵素顆粒内のアミラーゼやトリプシノーゲンに量的、質的な変化が生じるかどうか。予備実験により、絶食にするとアミラーゼはオートファジーにより減少するが、その程度はRab7KOマウスでも変化がないことを確認している。③膵腺房細胞には膵酵素の細胞内での活性化の防御機構として、オートファジー、膵分泌性トリプシンインヒビターとしてのSPINK3などの機能を持っている。Rab7マウスではこれらの防御機構に異常が生じているかどうか。を検討していく。マウスでの検討がうまく進まない場合は、上述のin vitroモデルをうまく絡めながら検討を進めてゆく。
少額の残金であり、購入額との折り合いがつかなかった。次年度に物品費の一部として使用する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Biochem Biophys Res Commun
巻: - ページ: -
10.1016/j.bbrc.2020.03.155.
胆と膵
巻: 40 ページ: 1065-1072