研究課題/領域番号 |
19K08482
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
加藤 孝宣 国立感染症研究所, ウイルス第二部, 室長 (20333370)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | B型慢性肝炎 / 臨床的治癒 / 遺伝子変異 / cccDNA |
研究実績の概要 |
本研究ではB型慢性肝炎の鎮静化に関わるHBVコア領域97番目のアミノ酸のイソロイシンからロイシンへの変異(I97L)が、HBVのライフサイクルに与える影響について検討を行っている。昨年までの研究により、このI97Lを持つHBVではHBV蛋白質やウイルス粒子は通常のHBVと同様に産生されるが、ウイルス粒子内のHBVゲノムである不完全二本鎖DNAの合成効率が低下し、主に一本鎖DNAをゲノムとして持つ未成熟なウイルス粒子が産生されることが明らかとなった。そこで本年度は、このI97L変異がHBV感染と感染後のcccDNA生成に与える影響について検討を行った。まず培養細胞へのHBV感染系を用いて、HBVの感染過程におけるI97L変異の影響を評価した。その結果、I97L変異を持つHBVではウイルス粒子の細胞表面への吸着効率や細胞内への侵入効率には差を認めなかったが、感染後のcccDNAの生成効率が低下していることが明らかとなった。次にリサイクリング依存性cccDNAの合成効率についても検討した。複製モデルコンストラクトを培養細胞に導入し、pregenomic-RNA産生からcccDNAの生成効率について評価を行なった。I97L変異を持つHBVではpregenomic-RNA産生量では通常のHBVと差を認めなかったが、コア粒子内での不完全二本鎖DNAゲノムの合成効率とリサイクル依存性cccDNAの生成効率が低下していた。以上の結果からHBVコア領域のI97L変異は一本鎖ゲノムを持つ未熟なウイルスを産生することで、感染後およびリサイクル依存性の両方のcccDNA生成効率を低下させていると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までの検討によりI97L変異を持つHBVでは培養細胞への感染効率が約1/3程度にまで低下することが明らかとなった。I97L変異を持つHBVの感染力価が低下する原因として、このウイルスでは通常のゲノムである不完全二本鎖DNAの産生効率が低下し、未成熟なゲノムである一本鎖DNAが含まれるウイルス粒子が主に産生されていることが分かった。そこで本年度は、このI97Lの変異がHBVの感染過程に与える影響について詳細な検討を行っている。HBVゲノムの1.38倍長を持つ複製モデルコンストラクトを培養細胞に導入し、得られた培養上清をイオジキサノールの密度勾配超遠心法で精製したHBV粒子を、NTCPを発現させた培養細胞に感染させて検討を行った。まず細胞表面への吸着と細胞内への侵入効率について検討したところ、I97L変異を持つHBVと通常のHBVで吸着および侵入効率に差を認めなかったが、感染後のcccDNA産生量についてはI97L変異を持つHBVで低下が認められた。そこで、リサイクリング依存性cccDNAの合成効率についても、1.38倍長HBVゲノムの培養細胞への導入により評価を行った。培養細胞へのHBV複製モデルコンストラクト導入後のpregenomic-RNAの産生効率については差を認めないが、I97L変異株ではコア粒子内での不完全二本鎖DNAゲノムの合成効率が低下しており、さらにリサイクル依存性cccDNAの生成効率も低下していた。これらの結果から、このコア領域のI97Lの変異は感染後およびリサイクル依存性のcccDNA生成効率を低下させることでHBVの増殖能を減弱させていると考えられた。以上の研究成果を元に現在論文を作成し投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果から、コア領域のI97Lの変異はウイルス粒子内のHBVゲノムの合成に影響を与え、I97L変異株では未成熟な一本鎖DNAのゲノムを持つウイルス粒子が産生されること、さらにこの変異を持つHBVでは感染後およびリサイクル依存性のcccDNA生成効率が低下し、HBVの増殖能が損なわれていることが明らかとなった。今後はこのI97L変異が関わる未成熟なウイルス粒子が産生される機序について検討を予定している。これまでの検討において、このI97L変異を持つHBVでは培養上清へのHBc抗原の放出量が高く、またイオジキサノールの密度勾配超遠心法の検討により、I97L変異を持つHBVではHBs抗原と共存するHBc抗原量が高いことが示されている。これらの結果から、I97L変異を持つHBc抗原ではHBcの二量体形成効率やカプシドとエンベロープの結合性に関わるHBs抗原との結合効率が向上している可能性が考えられる。そこで、Split-luciferase Assay Systemを用いてI97L変異がHBc抗原間の直接的な結合や、HBcとlarge-HBs抗原との結合に与える影響について検討を行う。さらに、カプシド形成にはHBc抗原とpregenomic-RNAとの結合も不可欠であり、HBc抗原とpregenomic-RNAの親和性も関与している。そこでpregenomic-RNAとHBc抗原の結合能にI97L変異が与える影響も免疫沈降法で評価したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末納品等にかかる支払いが、令和3年4月1日以降となったため。当該支出分については次年度の実支出額に計上予定であるが、令和2年度分についてはほぼ使用済みである。
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