研究課題
近年、B型慢性肝炎症例においてHBVのコア領域97番目のアミノ酸のイソロイシンからロイシンへの変異(I97L)を持つ患者では、HBs抗原やHBV DNA量が低下し、肝炎が鎮静化する症例が多いことが報告されている。そこで、本研究では培養細胞でのHBV感染増殖系を用いて、このI97Lのアミノ酸変異がHBVのライフサイクルに与える影響を評価した。これまでの検討により、このI97Lを持つHBVではHBV蛋白質やウイルス粒子は通常のHBVと同様に産生されるが、ウイルス粒子内に含まれるHBVゲノムである不完全二本鎖DNAの合成効率が低下しており、主に一本鎖DNAをゲノムとして持つ未成熟なウイルス粒子が産生されていることが明らかとなった。さらに、この未成熟な一本鎖DNAゲノムを持つウイルスでは、感染後のcccDNAの産生効率や感染細胞内でのリサイクリング依存性cccDNAの産生効率が通常のHBV株と比較して低下した。また、未成熟なウイルス粒子が産生される原因として、ウイルスのカプシドを構成するHBc抗原にI97L変異が入ることで、エンベロープを構成するHBs抗原との結合能が増強し、ウイルス粒子に内包されるゲノム合成が不完全な状態でも粒子が感染細胞から放出される機序が考えられた。これらの検討結果は、臨床的に観察されたHBV I97L変異株の感染者でHBs抗原やHBV DNA量の低下が期待できるという事象をウイルス学的側面から説明できるものであり、B型慢性肝炎患者への治療介入の必要性を判断する上で重要な知見と考えられた。今後はさらに検討を進め、このI97L変異が関与する感染力の低下やcccDNA産生効率の低下がHBV株や遺伝子型に依存しているかについて検討を行う。
2: おおむね順調に進展している
これまでの検討により、コア領域のI97Lの変異を持つHBV株では未成熟な一本鎖DNAのゲノムを持つウイルス粒子が産生され、その結果としてHBVの感染効率が1/3程度にまで低下していることが明らかとなった。感染力が低下する原因を詳細に検討したところ、I97L変異を持つHBVでは、細胞表面への吸着と細胞内への侵入効率については通常のHBVとの間に差を認めなかったが、感染後のcccDNA産生量が低下していた。さらに、リサイクリング依存性cccDNAの産生効率も低下していることが明らかとなった。そのcccDNAの合成効率の低下は、I97L変異を持つHBVでは通常のゲノムである不完全二本鎖DNAが産生されず、未成熟なゲノムである一本鎖DNAが含まれるウイルス粒子が主に産生されることが原因と考えられた。そこで、その一本鎖DNAが含まれる未成熟なウイルス粒子が産生される機序についても検討を行った。密度勾配超遠心法を用いた検討において、I97L変異を持つHBVではHBs抗原と共存するHBc抗原量の比率が高く、I97L変異を持つHBc抗原がウイルスのエンベロープを構成するHBs抗原と強く結合し、内包されるウイルスゲノムが未成熟な状態で細胞外に放出されている可能性が考えられた。そこで、HBc抗原とHBs抗原の結合能について検討を行ったところ、I97L変異を持つHBc抗原では通常のHBc抗原と比較してHBs抗原との結合能が増強しており、これが一本鎖DNAゲノムを含む未成熟なHBV粒子が産生されるひとつの原因と考えられた。
これまでの研究成果により、コア領域のI97Lの変異はウイルス粒子内のHBVゲノムの産生に影響を与え、I97L変異株では未成熟な一本鎖DNAのゲノムを持つウイルス粒子が産生されることで、HBVの感染力が減弱し、その増殖能が損なわれていることが明らかとなった。また、この未成熟な一本鎖DNAゲノムを持つウイルスでは、感染後のcccDNA産生やリサイクル依存性のcccDNA産生が低下していることも判明した。さらにこの未成熟な一本鎖DNAゲノムを持つウイルス粒子が産生される機序のひとつとして、I97L変異によりHBc抗原とHBs抗原の結合力が増強されることで、不完全二本鎖DNAが合成される前の不完全な状態でウイルス粒子が感染細胞から放出されていることを明らかにした。しかしこれらの検討は、全てHBV遺伝子型C株のひとつの株で行われた検討であり、遺伝子型Cの他の株や他の遺伝子型株におけるI97L変異の影響は明らかではない。そこで、遺伝子型Cの複数の株や日本国内で検出される遺伝子型A株やB株、さらに培養細胞で用いられる遺伝子型D株におけるI97L変異の影響について検討を行う。
これまでの研究成果により、臨床的に観察されたコア領域のI97Lの変異がウイルス粒子内のHBVゲノムの産生に影響を与え、I97L変異株では未成熟な一本鎖DNAのゲノムを持つウイルス粒子が産生されることで、HBVの感染力が減弱し、その増殖能が損なわれていることが明らかとなった。これはI97L変異株の感染者においてHBs抗原やHBV DNA量の低下が期待できるという事象をウイルス学的側面から説明できるものであり、B型慢性肝炎患者への治療介入の必要性を判断する上で重要な知見と考えられた。しかしこれらの検討は、全てHBV遺伝子型C株のひとつの株で行われた検討であり、遺伝子型Cの他の株や他の遺伝子型株におけるI97L変異の影響は明らかではない。そこで、遺伝子型Cの複数の株や日本国内で検出される遺伝子型A株やB株、さらに培養細胞で用いられる遺伝子型D株におけるI97L変異の影響について検討を行いたい。
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Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology
巻: 12 ページ: 1583~1598
10.1016/j.jcmgh.2021.07.013