研究課題/領域番号 |
19K08488
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
齋藤 成達 京都大学, 医学研究科, 助教 (20467484)
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研究分担者 |
中村 匡徳 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20448046)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 数値流体力学 / 血流解析 / 0次元モデル |
研究実績の概要 |
本研究の最終目標は数値流体力学(CFD, Computational Fluid Dynamics)を用いて冠動脈流体解析を行い、解析結果に流線、壁面せん断応力を加えることによりハイリスク病変の検出、将来のプラーク進展を予測可能とすることである.流線、壁面せん断応力の評価精度向上のためには,冠動脈内血行動態が生理的に正しい必要がある.そこで,本年度は,CFDにより得られる冠動脈内血行動態のうち,特に,血流量の変化に着目し,左冠動脈特有の二峰的流量変化を再現できる計算条件を模索した. 2019年度(前年度)は,冠動脈の抹消血管の血流を0次元モデル化し,CTにより撮像される冠動脈部の3次元血流モデルと連成させることで,冠動脈内の血流のシミュレーションを行った.しかし,2019年では定常流を仮定していたため,血流の非定常的変化を議論できなかった.そこで,2020年度は,拍動流での流れを再現するために,抹消血管の抵抗だけではなく,血管のコンプライアンスを表現するとともに,左心室の収縮に伴う左冠動脈の圧迫を考慮した冠動脈抹消血流の0次元モデルを構築した.詳細は【現在までの進捗状況】に記載するが,収縮期と拡張期にそれぞれ流量ピークを有するような二峰的な流量変動を示す血行動態を再現することができた.また,収縮期よりも,拡張期の流量の最大値の方が大きいという特徴の再現にも成功した.結果より,左冠動脈血流の再現のためには,心筋内圧の表現が重要であることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
大動脈基部の形状を模したモデルを作製し,これにCT画像から構築した左冠動脈内腔モデルを接続して,解析対象のモデル形状を作製した.作製した血管形状モデル内の血流は3次元のNavier-Stokes方程式と連続の式で表現した(3次元モデル).モデルの各末端から毛細血管部までの血流は流体力学と電気回路のアナロジーにより0次元モデルで表現した.左冠動脈末端の0次元モデルの構築にあたっては,血管抵抗,血管コンプライアンス,心筋の収縮・弛緩によって生じる心筋内圧を考慮した.血管コンプライアンスはコンデンサによって表現し,流れ抵抗と並列接続した.心筋内圧は交流電源で表現し,血管コンプライアンスの下流に配置した.大動脈基部下流側の血流0次元モデルは,抵抗とコンデンサから成る二要素Windkesselモデルによって表現した.左心室から駆動される血液の流量を大動脈の入口に与え,実像される血管部(3次元モデル)と抹消部(0次元モデル)の血流を相互作用させて,冠動脈内の血流を計算する手法を構築した. 収縮期中の1時点にてピークを有するような心筋内圧波形を与えた場合では,冠動脈流入流量のピークが収縮期後半に一度,現れるのみであった.一方,収縮期中には一定値を維持するような台形波状の心筋内圧波形を入力した場合では,冠動脈流入流量のピークが収縮期と拡張期にそれぞれピークが現れるような二峰的な流量変動を再現できた.すなわち,左冠動脈流量の二峰性を再現するためには,与える心筋内圧波形の形状が重要であることが明らかとなった.また理論と実測値の整合性を担保するため3Dプリンターを用いて冠動脈模型を作成し評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
左冠動脈血流の二峰的な流量変動の再現には成功したものの,収縮期・拡張期ともに流量ピーク直後に流量は急減しており,生理学的な変動傾向とは完全には一致してない.また,冠動脈血流の定量的な妥当性は得られていない.計算の結果得られた圧力は80-130 mmHgに収まっており,生理的であるといえるが,冠動脈流量が生理学的な値の5倍程度ある.プラーク進展は,壁面せん断応力との関連が指摘されており,流量を生理学的な範疇に修める必要がある.これらの問題を解決するための方策は2つある.1つは,心筋内圧波形の調整である.2020年度の研究から明らかとなったように,心筋内圧波形は冠動脈流入流量の変化に大きく関与する.2つ目は,血管末端部の0次元モデルのパラメータ調整である.冠動脈流量が過多であるため,大動脈により多く流れるようなパラメータ調整を行う.計算形状には右冠動脈が存在していない.左冠動脈流量を下げるためには,右冠動脈も含めた計算も一手と考えられる.これらにより十分な精度で冠動脈内血行動態の再現が可能になれば、せん断応力とハイリスク病変の関係性の解明に進む予定である。具体的には算出された壁面せん断応力からハイリスク病変が検出できないかを臨床研究により検証を行う。壁面せん断応力からハイリスク病変が検出により患者のリスク層別化が可能となることを目標とする。また,血流計算の不確かさ解析も並行して進める.計算では,パラメータを入力する必要があるが,未知の値を入力するため,パラメータの不確かさに起因して結果にも不確かさが存在する.血流解析の臨床応用に向け,血流シミュレーション結果の不確かさ解析も2021年度に行う.
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