冠動脈の虚血を診断するための指標として,冠血流予備量比(FFR)が用いられているが侵襲的である.HeartFlow社に代表されるように,数値流体計算(CFD)を用いて非侵襲的にFFRを推定する試みがなされているが複雑で時間もかかる、本研究ではMurrayの法則、分枝の出口血管径の3乗比に基づいて血流を分配し,出口流量境界条件を決定するという方法でFFRを推定することを試み,末梢血管抵抗を電気回路抵抗としてモデル化した。 京都大学附属病院にてFFR測定を行った23名31症例(左冠動脈:31症例(LAD:20症例,LCx:11症例)をFFR推定対象とし患者ごとにCT画像から冠動脈形状モデルを作成、この部分を流れる血流は,3次元流体モデルで表現した.CTに撮像されない抹消の血管を流れる血流は0次元モデルにて表現した.0次元モデルの作成では,以下の3つの規則に従って,末端出口より逐次血管が分岐するとした.(i)親血管は2本の娘血管に対称に分岐する.(ii)娘血管の血管径は親血管の血管径の定数倍になる.(iii)各血管の長さは血管直径の定数倍になる.0次元モデルと3次元モデルを反復し,FFRを推定した. 得られたFFR推定値はFFR測定値に対して正に相関していたが,FFR推定値がFFR測定値に比べ,大きくなる症例が多かった.FFR推定値はFFR測定における虚血陽性症例のFFR推定精度が低かった.FFRの閾値を0.8としたところ,本研究で得られたFFRの感度,特異度,相関係数はそれぞれ0.14,1.00,0.52となった.本研究の境界条件はMurrayの法則を用いた流量分配に比べ,狭窄流路を通る流量が少なくなる傾向が確認できた. 末梢血管抵抗を表す0次元モデルを導入することで,末端に狭窄を持たない血管に対して適切な流量分配をすることが可能であることが分かり計測値に近いFFRを推定できた.
|