研究課題
2020年度は、目標としていたゲノム編集を用いた蛍光タンパク質導入によるサルコメアイメージングについて研究の進捗が得られた。心筋に特異的に発現するミオシン調節軽鎖タンパク質(Myl2遺伝子)の3’末端にtdTomato蛍光タンパク質をノックインする評価系を用いて、アデノ随伴ウイルス(AAV)によるガイドRNAと修復テンプレートDNAの導入により、Cas9ノックインマウス成獣心臓組織の非分裂心筋細胞において相同組み換え(HDR)が生じることを見出した。成獣マウスに対する経静脈的AAV投与ではHDRは生じず、HDRの誘導には左室自由壁への高用量AAVの導入が必要であることが明らかとなった。更にこの方法を応用し、ヒトMYL2遺伝子をターゲットとしたtdTomato蛍光タンパク質のノックインを試みた。分化後のヒトiPS心筋細胞に対してAAVによる遺伝子導入により直接HDRを生じさせ、S期侵入を経ないヒトiPS心筋細胞においてサルコメア収縮を可視化する系を確立し報告した。心筋細胞におけるAAVを用いたHDR誘導は、今後の研究において様々な応用が期待できると考えられる。2019年度に、サルコメアの細いフィラメント構成遺伝子であるトロポニンTにおいて高病原性変異を同定し、これら症例から疾患iPS細胞を樹立した。2020年度には、樹立した疾患iPS細胞に対してゲノム編集を行い、変異を野生型に修復、あるいは変異を両アレルに導入したアイソジェニックiPS細胞を樹立した。これらアイソジェニックiPS細胞を心筋に分化させ、カルシウムトランジェント解析、モーションベクトル解析、ウェスタンブロットによるカルシウム制御タンパク質発現の解析を行っている。同時に、AAVを用いてRGECO融合タンパク質をiPS分化心筋に発現させることにより、細胞内局所のカルシウム動態解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、1: 高病原性変異をもつ拡張相肥大型心筋症症例からの疾患iPS細胞樹立、2: ゲノム編集を用いたアレル改変によるアイソジェニックiPS細胞の樹立、3: ゲノム編集を用いたサルコメアイメージング、4: iPS分化心筋を用いた詳細な機能解析を目的として設定し、2020年度は1,2,3について研究の進捗が得られた。1,2については、当初予定していた疾患iPS細胞の樹立、ゲノム編集によるアイソジェニックiPS細胞株セットの構築を行い、変異を修復あるいは導入した複数の細胞株を樹立し、各種iPS細胞品質管理項目の確認を行った。3については、ミオシン調節軽鎖タンパク質(Myl2遺伝子)の3’末端にtdTomato蛍光タンパク質をノックインする評価系を用いて、アデノ随伴ウイルス(AAV)によるガイドRNAと修復テンプレートDNAの導入により、Cas9ノックインマウス成獣心臓組織の非分裂心筋細胞において相同組み換え(HDR)が生じることを見出した。この方法を応用し、ヒトMYL2遺伝子をターゲットとしたtdTomato蛍光タンパク質のノックインを試みた。分化後のヒトiPS心筋細胞に対してAAVによる遺伝子導入により直接HDRを生じさせ、S期侵入を経ないヒトiPS心筋細胞においてサルコメア収縮を可視化する系を確立した。
2020年度までに樹立したアイソジェニックiPS細胞セットを心筋に分化させ、遺伝子変異が細胞内カルシウム動態に及ぼす影響を、R-GECO融合タンパク質の導入や、カルシウムトランジェント評価により解析する。また、サルコメア遺伝子変異が心筋の収縮・拡張動態に及ぼす影響を評価するため、モーションベクトル解析を行う。更に、異常な細胞内カルシウム動態がその下流に及ぼす影響を解明するため、ウェスタンブロットや免疫染色により、カルシウム制御タンパク質や下流因子の発現、局在の評価を行う。
COVID-19蔓延により、研究の一部が遅延し、また当初予定していた学会発表等に伴う旅費が発生せず、繰越額が生じた。次年度使用額について、当初の研究計画目的であるiPS分化心筋を用いた詳細な機能解析に使用していく予定である。
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Scientific Reports
巻: 10 ページ: 15348
10.1038/s41598-020-72216-y