心臓は組織重量当たり、最もエネルギー(アデノシン三リン酸;ATP)を消費する臓器の一つである。健常心筋では第一に脂肪酸、それに次いで糖を基質としたATP合成が行われる。一方、一部に乳酸、ケトン体、アミノ酸なども利用可能である。心不全のような病的状況下では、心筋のエネルギー基質の利用バランスが大きく変化する(代謝リモデリング)ことが知られている。具体的には、脂肪酸酸化の低下と解糖系の亢進、さらにケトン体の利用亢進や分岐鎖アミノ酸の代謝障害等が生じることが明らかにされている。このような代謝リモデリングは、心筋の代償的変化である心肥大や心筋線維化(心筋リモデリング)が起こる以前から認められ、心筋代謝と心筋リモデリングの進展機序には深い関連があることが知られている。 グルタミンは血中に最も豊富に存在するアミノ酸で、“グルタミノリシス”と呼ばれる代謝経路を介し、グルタミン酸を経てα-ケトグルタル酸 としてTCA回路へ流入する。培養心筋細胞では酸化ストレス下でグルタミノリシスが亢進し、ATPと抗酸化分子であるグルタチオンの合成を維持し、心筋保護的に作用していた。一方、マウスを用いた検討ではAngiotensinⅡで誘導した心筋リモデリングはグルタミノリシスの律速酵素であるGlutaminase1(GLS1)の阻害剤BPTESによりむしろ抑制された。その機序として、グルタミンは細胞構成に必要な核酸・脂質の元となるアスパラギン酸やクエン酸へも代謝されることで、心筋リモデリングの進展にも寄与していることを明らかにした。
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