HAECを用いたin vitroの検討では、高血糖刺激においてmtROS産生増加を認めた。一方で、アデノウイルスを用いたMnSOD過剰発現HAECでは、高血糖刺激で増加したmtROS産生が抑制された。RT-PCRでの検討では、高血糖刺激でNrf2、ICAM1およびVCAM1のmRNAやタンパク発現は上昇を認めなかった。 in vivoの検討においては、高脂肪食負荷をしたコントロールのApoE-/-マウスと高脂肪食負荷をしたeMnSODTgApoE-/-マウスの2群間でipGTT、ipITT、体重および随時血糖に有意な差は認めなかった。加えて、血清脂質値に関しても2群間で有意な差は認めなかった。一方で、大動脈洞および胸部大動脈では大脈硬化病変の形成はeMnSODTgApoE-/-マウス群において、ApoE-/-マウス群と比較してそれぞれp:0.0392 、p:0.000627 と動脈硬化病変の形成は有意に抑制されていた。 以上の結果から、高脂肪食負荷ApoE-/-マウスにおいて、血管内皮特異的なMnSOD過剰発現は、耐糖能や血清脂質に影響を与えず動脈硬化抑制を発揮した。細胞実験ではHAECにおいて高血糖刺激ではNrf2やICAM1およびVCAM1発現に影響を与えなかった。以上のことから大血管合併症発症にはmtROSを介した経路の存在が示唆され、そのmtROSを抑制することは動脈硬化進展抑制効果が期待されることが考えられた。 つまり、mtROSを血管内皮特異的に抑制することが、大血管合併症を抑制するための新たな治療ターゲットになると考えられた。一方、当初はMnSOD過剰発現における抗動脈硬化作用機序にNrf2やICAM1、VCAM1の関連性が予想されたが、その関連性は証明しえず、その機序解明という今後の課題が残された。
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