研究課題/領域番号 |
19K08509
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
都島 健介 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (50436482)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 心筋微細構造 / 電子線トモグラフィー / 超高圧電子顕微鏡 / APEX2 / AKT |
研究実績の概要 |
心不全(HF)の患者の約50%は、左室収縮機能の低下が認められない「駆出率の保たれた心不全(HFpEF)」と呼ばれる病態で、心筋の拡張機能低下が病態に関与していると考えられている。現在まで心筋拡張障害の原因についての理解は限定的であり、ACE阻害薬やβ遮断薬を用いてもHFpEFの発症予防や予後改善効果が期待できないことが示されている。心筋の拡張障害は、糖尿病、高血圧、加齢など多くの因子と関連していると考えられており、HFpEFの治療や発症予防の治療戦略を考える上でその分子機序の解明は近々に解決するべき課題である。本研究は、心筋の拡張障害の発生にミトコンドリア、筋小胞体などの心筋細胞内小器官の機能異常が関与している、との仮説のもと、心筋のオルガネラ微細構造を理解するために以下の3つの目標を達成することを目指して計画された。(1)オルガネラやインスリンシグナル分子を標識する電子顕微鏡用のプローブを作成し、心筋での微細な局在を電子顕微鏡で可視化する技術を開発する。(2)超高圧電子顕微鏡を用いた電子線トモグラフィーを用いて、厚みのある心筋サンプルを観察する方法を確立し不全心筋の微細構造変化を3次元で理解する。(3)拡張不全の原因として、ミトコンドリア、筋小胞体近傍で伝達されるインスリンシグナル分子の機能異常の関与を明らかにする。 今までに、主要なインスリンシグナル分子であるAKT1およびAKT2を標識するプローブを作成しマウス生体の心筋への導入を行った。マウス生体の心筋におけるAKT1およびAKT2の局在の違いについて検討を行った。また、通常の10倍の厚さ(800nm)の心筋試料を超高圧電子顕微鏡で観察を行い、心筋の膜小胞構造の3次元配置を良好な解像度で観察する技術を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
電子顕微鏡用のプローブはアスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APEX2)との融合蛋白を作成し、マウスの心筋へはトランスジェニックマウスおよびアデノ随伴ウイルスによる遺伝子導入により行った。APEX2融合タンパク質の作成と培養細胞による発現チェックは予定通りに進んだが、2020年1月より始まった新型コロナウイルス感染の拡大により、発生工学センターと電子顕微鏡施設の閉鎖があり研究の進行に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
心臓の機能を理解する上で、心筋を構成するオルガネラやタンパク質複合体の三次元的構造や局在を明らかにすることは、基礎研究のみならず、重大な疾病の治療法や薬剤の開発を行う上でも有用である。今まで、心筋の微細構造の解析には透過型電子顕微鏡(TEM)が用いられてきたが、本研究で電子線の加速電圧が1000kVを超える超高圧電子顕微鏡を使用することで、0.3μm, 0.5μm, 1.0μmの厚さの心筋試料もZ帯、I-band、A-band、M-band、ミトコンドリア、T管-筋小胞体構造が、3次元構築に耐えうる解像度で描出できることが確認された。厚みのある心筋試料の観察は当初予想していた3次元観察の幅を広げるのみでなく、従来の電子顕微鏡では捉えられなかった構造の発見にもつながっている。心筋サルコメアにはI-band、A-band、M-bandの他にも単量体アクチンが集合しアクチンフィラメントを紡ぎ出しているように見えるバンド状の構造体の存在も確認した。また、エンドソームや筋小胞体などのオルガネラ構造は断面でしか捉えることができなかったが、毛細血管近傍の心筋内には、球状の小胞体構造が細胞膜、ミトコンドリア、サルコメア周囲に無数に散在している様子も観察された。初めて全体像として捉えられた心筋の膜小胞構造体やサルコメアのバンド状新規微細構造が、①心筋の恒常性維持にどのように関わっているのか、②インスリンなどのシグナル伝達の場として膜小胞構造がどのように移動し変化するのか、③病態ストレス応答にどのように反応するのか、今後さらに解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の研究成果を論文発表する際に必要な投稿料を本研究費より支出するため
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