ミトコンドリアは絶えずその形態を変化させており(ミトコンドリアダイナミクス)、細胞機能と密接に関連することが知られている。本研究では梗塞後の心臓組織に浸潤するマクロファージにおけるミトコンドリア分裂誘導タンパクDrp1(dynamin-related protein 1)の役割に着目し、マクロファージのミトコンドリア分裂が心筋梗塞とその後の左室リモデリングにどのような影響を及ぼすか明らかにすることを目的とし検討を行った。 これまでにLysozyme-M陽性細胞特異的Drp1欠損マウスを用い、マクロファージDrp1欠損マウスでは左冠動脈前下行枝領域の虚血-再灌流後の心筋梗塞サイズに明らかな変化は生じないこと、左冠動脈前下行枝の完全閉塞28日後の梗塞心では左室拡大、駆出率低下を認めることを明らかにしていた。今年度、心筋梗塞後の心臓組織より単球・マクロファージを単離し梗塞後3日目に心臓組織に集積するマクロファージの解析を行った。その結果、単球・マクロファージ数はDrp1欠損群で増加傾向であったが炎症性単球であるLy-6C高発現炎症性単球の割合に有意な差は認めなかった。また、Drp1阻害剤により処理した炎症性マクロファージのRNA-seq解析では細胞周期や細胞外基質の産生に関連する様々な経路のmRNA発現の抑制を確認した。 以上の結果は心筋梗塞後、長期間ミトコンドリア分裂が阻害されることにより障害ミトコンドリアが蓄積し炎症の遷延、左室リモデリングの進行が生じる可能性を示唆するものと考えられた。ミトコンドリア品質維持機構の破綻により左室リモデリングが進行する詳細なメカニズムについてはさらなる検討が必要と考えられた。
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