肺動脈性肺高血圧症(PAH)は予後不良の病態であるが、近年、薬物療法の進歩により予後は改善してきている。しかし、その効果は十分とはいえず、新しい機序の治療薬の開発が喫緊の課題である。Oxidative stress-Responsive Apoptosis Inducing Protein(ORAIP)は低酸素負荷後再酸素化刺激された心筋細胞から分泌されアポトーシスを誘導する分泌型タンパク質として、2015年にはじめて同定された物質である。ORAIPは酸化ストレス性疾患のバイオマーカーとしてだけでなく、その中和抗体は新しい機序の治療薬として注目されている。本研究では、肺動脈性肺高血圧症(PAH)の症例から採取、保管した血液中のORAIP濃度を測定し、PAHのバイオマーカーとしての有用性を探究する。また、ORAIPのPAHの病態への関与を解明する。これらの研究は、既存の治療薬とは異なるアポトーシスを制御することで新しい治療法の開発を目指す、その基盤となる研究である。2019年はモノクロタリン(MCT)-PAHモデルラット、肺組織でのORAIPの発現の上昇が認められ、anti-ORAIP中和抗体で肺高血圧の改善効果が認められた。そこで抗体医薬として肺動脈性肺高血圧症に対する用途特許を目指した。2020年はSUGEN低酸素-PAHモデルラットを作成しanti-ORAIP中和抗体で肺高血圧の改善効果を検討した。SUGEN低酸素-PAHモデルラットではanti-ORAIP中和抗体で肺高血圧の改善効果はMCT-PAHモデルで投与したときほどの優位な効果は認められなかった。2020年から2021年にかけてORAIP受容体ノックアウトラットを用いてSUGEN低酸素-PAHモデルを作成し、PAHの程度を評価したが、野生型ラットをノックアウトラットでPAHの程度に差はなかった。
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