研究課題/領域番号 |
19K08522
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
佐藤 達也 札幌医科大学, 医学部, 助教 (40592473)
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研究分担者 |
矢野 俊之 札幌医科大学, 医学部, 講師 (40444913)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 心筋ミトコンドリア / 鉄欠乏 / 心不全 / 心筋症 / 酸化ストレス |
研究実績の概要 |
鉄欠乏は基質的心疾患を有する患者の独立した予後不良因子であるが、その機序は未だ不明な点が多い。本研究では、不全心筋における鉄欠乏に対する応答性の低下が、虚血耐性低下や心機能低下に寄与していると仮説を立て、本年度は以下の実験を行った。 鉄欠乏を伴う基質的心疾患モデル(心不全診療ガイドラインのステージB相当)として、8週齢のSDラットに5/6腎摘を施術した腎亜全摘モデル(subtotal nephrectomy: SNx) を用いた。施術5週後のSNxは、コントロールであるShamに比して、約3倍血清クレアチニン値が上昇し、血圧が高く、心重量が大きく、ヘモグロビン濃度と血清鉄・総鉄結合能の低下を示し、臨床の慢性腎疾患における腎機能低下、高血圧、心肥大、貧血、全身性鉄欠乏を呈していることを確認した。Iron regulatory protein (IRP)により制御される心筋フェリチン発現量はShamに比してSNxで低下しており、IRPを介した反応系はSNxで正常に機能していることが示唆された。一方、鉄欠乏時に活性化しミトコンドリア鉄利用を最適化するtristetraprolin (TTP)の発現量はShamに比してSNxで低下していた。ミトコンドリア鉄の含有量はSNxとShamで差を認めなかったが、鉄硫黄クラスターにより機能が制御されるミトコンドリアAconitaseの活性はShamに比してSNxで低下し、SNxではTTPを介した心筋ミトコンドリアにおける鉄欠乏に対する適応が低下していることが示唆された。20分虚血-2時間再灌流を施行した心筋虚血再灌流モデルにおいて、心筋梗塞サイズはShamに比してSNxで大きく、SNxで虚血耐性の低下が示唆された。 以上より、SNxでは鉄欠乏に対する心筋応答性が障害され、ミトコンドリア機能障害や細胞死に寄与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心筋内鉄代謝障害を有するSNxでは、ミトコンドリア機能障害と虚血再灌流障害に対する保護機構の破綻がみられ、心筋の鉄欠乏に対する応答性の低下が、心筋保護機構の破綻や細胞死に関与している可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きSNxモデルを用いて、不全心筋の鉄欠乏における心筋内鉄代謝障害の更に詳細な機序を明らかにし、鉄欠乏合併心疾患における治療標的を模索する。また、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)は慢性腎疾患患者における貧血を是正し、組織鉄利用の改善作用を有することから、現在腎性貧血の標準治療となっているが、最近の臨床研究の結果、ESAの使用量と心血管イベントの間にはJカーブ現象が存在することが報告されている。このESAのJカーブ現象の機序を明らかにすることで、現行治療法の改良に貢献したい。更に、別の基質的心疾患モデル(肥満2型糖尿病ラット)を用い、基質的心疾患の種類による鉄欠乏に対する応答の違いの有無を検討する。
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