研究課題
鉄欠乏は貧血と独立して心腎血管疾患を有する患者の予後不良因子であるが、その機序は不明な点が多い。本研究課題では不全心筋における鉄欠乏に対する応答性の障害が虚血耐性低下と心機能低下に寄与しているとの仮説立て検証した。鉄欠乏を伴う心不全モデルは8週齢のSDラットに5/6腎摘を施術した腎亜全摘モデル(subtotal nephrectomy: SNx)を用いた。施術5週後のSNx群は、Sham群と比べ、血清クレアチニン値と尿素窒素の上昇、心重量増加、血圧高値、血清鉄低下、血清鉄飽和度の低下を示し、SNxが全身性の鉄欠乏の表現型を呈する心不全ステージB相当の心不全モデルであることを確認した。興味深いことに、血清の鉄欠乏低下の指標とは対照的に、心筋ミトコンドリア内のヘム鉄濃度はShamに比してSNxでむしろ増加していたことから、血清の鉄欠乏は必ずしも心筋ミトコンドリア鉄欠乏を反映しない可能性が示唆された。また、ミトコンドリアのヘム合成経路の律速酵素であるaminolevulinate synthase 2 (ALAS2)の発現が増加していたことから、SNx群のミトコンドリア鉄過剰の機序としてALAS2の発現亢進が示唆された。また、心筋単離ミトコンドリアでは、酸化ストレス状態を反映する脂質過酸化がShamに比して有意に増加しており、ヘム鉄増加によるFenton様反応を介した酸化ストレス亢進が示唆された。実際、20分虚血-2時間再灌流を施行した心筋虚血再灌流モデルにおいて、心筋梗塞サイズはShamに比してSNxで有意に大きく、SNxで虚血耐性の低下が示唆された。以上より、SNxによる鉄欠乏を呈する心不全モデルでは、心筋ミトコンドリア内の鉄はむしろ増加し、酸化ストレス亢進を介して心筋リモデリングや虚血耐性の低下に関与している可能性が示唆された。
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Cardiovascular Drugs and Therapy
巻: Online ahead of print. ページ: 00-00
10.1007/s10557-022-07321-3