研究課題
近年、血液疾患を認めない健常人において造血器腫瘍に関連する遺伝子変異が末梢血液中に出現するクローン性造血の存在が明らかとなった。しかし、骨髄増殖性疾患の原因遺伝子変異によるクローン性造血の循環器疾患における意義は十分検討されていない。JAK2V617F変異骨髄増殖性疾患患者39名におけるCT所見を検討したところ、9名(23%)に大動脈瘤を認めた。JAK2V617F変異骨髄細胞が大動脈瘤形成に与える意義を明らかにするため、JAK2V617F変異トランスジェニックマウスの骨髄細胞をApoEノックアウトマウスに骨髄移植した(JAK2V617F-BMTマウス)。JAK2V617F-BMTマウスにアンジオテンシンII を投与したところ、対照群と比較して腹部大動脈瘤の発症が有意に増加した。JAK2V617F-BMTマウスの大動脈組織では血管壁の弾性線維の破綻が認められ、ゼラチンザイモグラフィーではマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)2とMMP9活性が有意に増加、免疫染色では浸潤したCD68陽性マクロファージの増加を認めた。さらに、JAK2V617Fマウスの骨髄細胞をGM-CSFによりマクロファージに分化培養したところ、Mmp2、Mmp9の遺伝子発現が増加していた。また、JAK2阻害薬RuxolitinibをJAK2V617F-BMTマウスに投与したところ、アンジオテンシンIIによる腹部大動脈瘤の発症が減少した。これらの結果から、JAK2V617F変異骨髄細胞は、大動脈組織に浸潤した骨髄由来マクロファージとMMP2、MMP9を介して大動脈瘤形成を促進させることを示した。
2: おおむね順調に進展している
クローン性造血の循環器疾患における臨床的な意義は十分検討されていない。我々はJAK2V617F変異骨髄増殖性疾患患者において、大動脈瘤の有病率を明らかにした。また、AK2V617Fマウスをドナーとして骨髄移植を行い、クローン性造血のモデルマウスを作成し、骨髄増殖性疾患の原因遺伝子変異であるJAK2V617Fによる大動脈瘤の発症機序を世界で初めて明らかにした。
クローン性造血のモデルマウスを低酸素下で飼育し、低酸素負荷による肺高血圧を生じさせる。野生型マウスの骨髄を移植した対照群と比較して、肺高血圧におけるクローン性造血の病態を明らかにする。JAK2V61Fマウスから骨髄細胞を単離培養し、H9c2心筋細胞と共培養する。また、JAK2V61Fマウス由来骨髄細胞を培養したコンディショナルメディウムを用いる。炎症性サイトカイン、心筋細胞肥大、心筋細胞死、酸化ストレスなどについて評価し、JAK2V617F細胞および分泌されたサイトカインが直接的に心筋細胞に与える影響について検討し、不全心筋の機序を解明する。
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