研究課題
糖鎖は複数の単糖が結合して構成されている。単糖は複数の結合部位を持つため、様々な構造をとる。また、単糖は糖以外の物質とも結合し、他の物質と結合して糖鎖を構成する際、様々な結合様式をとり、相互作用をもつ。また、細胞により、同じ糖鎖であっても異なる構造をとったり、細胞の代謝や栄養状態や微小環境によっても様々に修飾される。このように複雑で変化に富む糖鎖を対象とした研究は非常に難しいとされる。特に、生体内での糖鎖の修飾の組み合わせを解読する方法は未だ開発されていない。日本人死亡原因の約25% を占める脳血管疾患や心疾患は動脈硬化性疾患である。現在、動脈硬化を直接治療する薬はなく、新しい病態メカニズムの解明が必要である。動脈硬化の発症・進展仮説の一つに「貯留反応説」がある。DLの血管壁への蓄積が動脈硬化の発症起点とするもので、LDLの貯留に血管壁の糖鎖が関わるとするものだが、詳細はわかっていない。本研究は、動脈硬化発症・進展における糖鎖伸長機構をあきらかにするとともに、糖鎖の伸長を抑制することが、動脈硬化発症・進展を防ぐことになるかを検証することを目的とする。これまでの研究で、糖鎖合成酵素遺伝子改変マウスに動脈硬化症を発症させ、野生型と比較し、動脈硬化症の程度が軽減するかを検証し、糖鎖合成酵素遺伝子改変マウスでは糖鎖の伸長が野生型マウスと比較して抑制されており、血管の糖鎖長は短いこと、また大動脈における動脈硬化巣の形成は糖鎖合成酵素遺伝子改変マウスで明らかに抑制されていることを確認した。当該年度は疾病成立に関連する責任細胞を、フローサイトメーター用いて同定することを試み、マクロファージの関与を示す結果を得ることができた。これらの成果を取りまとめて論文として発表した。
2: おおむね順調に進展している
Covid-19感染拡大に伴う研究活動休止期間の影響で予定していた研究を実施することができなかったため。特にマウスに関しては一旦コロニーを縮小せざるを得ず、再度研究に必要なマウスを準備するのに時間を要する。
遺伝子改変マウスの交配については順調に進んでおり、本年度に予定している研究実施に必要なマウスは確保できる見通しとなった。
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う研究活動の制限のため、予定していた実験ができなかったため、実支出額が予定よりも少なくなった。一旦縮小したマウスコロニーも現在順調に拡大しており、次年度は計画通りに研究が進行することが期待される。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Arterioscler Thromb Vasc Biol.
巻: 41 ページ: 1076-1091
10.1161/ATVBAHA.120.315789.