研究課題
近年ヒトにおいて、Mandibulofacial Dysostosis with alopecia (MFDA;脱毛を伴う顎顔面骨形成不全症)の一部に、class A GPCRであるエンドセリンA受容体 遺伝子異常が発見され、我々はその一塩基変異モデルマウス等の作成とin vitroの実験から、機能獲得変異であることを見出している。動力学シミュレーションを用いてその構造変化と機能の関係の解明をマウスエンドセリンA受容体(リガンドなしとNa結合状態の野生型、Y129F変異体、E303K変異体の9種類、さらにエンドセリン3結合状態 の野生型とY129F変異体、合計11種類)の動力学シミュレーションを中心に行った。動力学シミュレーションのデータは、原子間距離の度数分布や水素結合の 存在確率や主成分分析等を用いて解析を工夫し、Y129F変異、E303K変異それぞれに固有のヘリックスの動きを見出すことができた。特にY129Fの変異では、class A GPCRで見られるNa/waterポケットの変化を検出し、その動きがエンドセリン3への親和性を上昇させることを理論的に推定することができた。この変異がヒトやマウスの形態異常を惹起することから、GPCRの動きが病態発症の直接原因であることを示すことができた。また、これは他のclassA GPCRにも当てはまる機序であることが予想されるので、GPCRの創薬においても注目すべき知見であると考え論文にまとめた。現在投稿中である。エンドセリンA受容体変異の晩発性病変発症については、老化マウスを作り直しているところであるので昨年度中の新たなデータ取得はわずかであり、新たな知見は見いだせなかった。
3: やや遅れている
昨年度の緊急事態宣言のとき、大学側より、出勤する人数を減らすため(すなわち動物実験施設の飼育員の出勤を減らすため?)、マウスの飼育ケージ数を減らすことと、掛け合わせ不可の要請があった。そのため系統維持に必要なマウスだけを残すこととなり多くのケージを必要とする老化マウスの飼育は中断し、in silicoの解析に専念した。その後マウスは順調に増えている。
エンドセリンA受容体変異の晩発性病変については生存率と腫瘍形成に明らかな差があることをデータとして示したので、病理組織学的所見からエンドセリンA受容体活性化特有の癌化であるのか、老化マウスに起こりやすい癌化を促進しているのかを考察するとともに、どちらにせよその分子生物学的機序を解明する。また、褐色/ベージュ脂肪細胞や白色脂肪細胞の発生、増殖に変化があるか評価する。
昨年度の緊急事態宣言のとき、大学側より、マウスの飼育ケージ数を減らすことと、掛け合わせ不可の要請があった。そのためマウスケージが極端に減った期間があったことと、老化マウスを用いた実験ができなかったため、wetの実験がかなり縮小したので、費用に余裕ができた。また、参加予定の国際学会も中止となった。
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iScience
巻: 24(4) ページ: 1-42
10.1016/j.isci.2021.102305.