研究課題/領域番号 |
19K08536
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
笹野 哲郎 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (00466898)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 心房細動 / 細胞外核酸 / cell-free DNA / ミトコンドリア / バイオマーカー / 細胞外小胞 |
研究実績の概要 |
心房細動では血中のCRP上昇や血中IL-6の上昇など、全身性の炎症反応が生じることが広く知られていた。一方、心房の炎症は心房細動の発症・進展に強く関連する因子でもあり、心房細動と全身および局所の炎症は互いに増悪因子としてvicious cycleを形成するものと考えられる。心房炎症が心房細動を進展させる機構は広く研究されているのに対し、心房細動が炎症を惹起するメカニズムは未解明であった。 我々は、ミトコンドリア由来cell free DNA (mt-cfDNA)の関与に注目して解析を行った。マウス心房筋細胞に対する高頻度電気刺激や、生体マウスに対する心房高頻度刺激により、培地中・血中のmt-cfDNAは増加した。これらのmt-cfDNAは非メチル化DNAで構成されており、マクロファージに取り込まれて非メチル化DNAを認識するTLR9を介してIL-6などの発現を誘導した。さらに、発作性・持続性心房細動患者と健常者の末梢血からcfDNAを抽出して定量を行った。心房細動患者ではmt-cfDNAが上昇しており、この傾向は発作性よりも持続性心房細動において顕著であり、心房細動診療におけるmt-cfDNAのバイオマーカーとしての有用性が示された。 さらに、心房細動の病態形成における細胞外小胞の関与について評価を行い、心房細動では粒子径の大きな小胞が放出されること、特異的な表面マーカーが発現していることを明らかにした。この疾患特異的小胞は、心房筋細胞から放出され、脂肪細胞に取り込まれて脂肪組織での炎症を惹起することを見いだし、心房筋と脂肪組織の相互作用の一端を明らかにした。さらに、ヒト末梢血における細胞外小胞の簡便な定量法の確立を試み、測定手法と採血条件・測定条件の最適化により再現性の高い定量評価法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) ミトコンドリア由来cfDNA(mt-cfDNA)のバイオマーカーとしての有用性の確立:発作性・持続性心房細動患者および健常者の末梢血を採取し、血漿中のcfDNAの定量を行った。cfDNAは核由来cfDNA(n-cfDNA)とmt-cfDNAに分けられるため、それぞれについてROC曲線を作成したところ、心房細動の有無の推定では、Area Under Curve (AUC)は総cfDNA 0.70, n-cfDNA 0.58, mt-cfDNA 0.80であった。また、持続性心房細動の有無の推定を行うと、AUCは総cfDNA 0.65, n-cfDNA 0.63, mt-cfDNA 0.75であった。以上より、cfDNA、特にmt-cfDNAは心房細動発症および持続化のバイオマーカーとして有用であると考えられた。 2) 細胞外小胞を介した心筋細胞と脂肪細胞の相互作用の解明:心房細動において心筋細胞から放出される粒子径の大きな細胞外小胞が、白色脂肪細胞に取り込まれて脂肪組織からのサイトカイン分泌を促進することを明らかにした。 3) 心房細動における細胞外小胞の定量評価法の確立:心房細動で心房筋細胞から放出される細胞外小胞について、レーザー回折・散乱法、Nano Tracking Analysis法による粒子径と粒子数の定量評価を行い、またフローサイトメトリーを用いた表面マーカーの評価を統合して、疾患特異的小胞評価法の確立を試みた。前者の定量評価ではカイロミクロン等の混入が大きく影響することを明らかにし、カイロミクロン画分を除いて細胞外小胞を定量する手法を確立し、さらに心房細動で放出される小胞に特異的な表面マーカーを同定した。これらにより、再現性の高い疾患特異的細胞外小胞の定量評価法を確立した。
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今後の研究の推進方策 |
1) 心房高頻度興奮時のミトコンドリア由来cfDNA放出機構の解明:心房筋細胞が高頻度電気刺激下でミトコンドリア由来cfDNAを放出するメカニズムについての検討を進める。Pannexinを通過したDNA放出やexocytosisを介した経路については昨年度の検討で否定的であり、今年度は主にmitophagy経路とその機能不全の関与に着目して検討を行う。 2) 心房細動における病態特異的細胞外小胞のプロファイル分析:心房細動において放出される疾患特異的細胞外小胞について、小胞を選択的に回収して小胞内のRNAを抽出してsmall RNAseqを行い、小胞に含有するmiRNAなどのnon-coding RNAおよびmRNAの網羅的解析を行う。 3) 疾患特異的細胞外小胞のバイオマーカーとしての有用性の検討:発作性・持続性心房細動患者および健常者の末梢血を採血し、血漿分離した後に、超遠心や試薬による細胞外小胞の抽出を行わずに、血漿から細胞外小胞の定量を行う測定系を確立する。昨年度までの検討により、食事などの影響を大きく受けることや定量性を示す濃度範囲についての情報はすでに得ているため、食前・食後など経時的な変化も含めて評価を行い、バイオマーカーとしての有用性と安定性を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
cfDNAの臨床検体からの抽出については、効果的な抽出・測定法を確立したために予想よりも費用が低減でき、予算を温存することが可能であった。一方、細胞外小胞については、持続性心房細動患者の血漿で見られた小胞と、培養心筋細胞の高頻度電気刺激によって放出された小胞に共通性を見いだしたため、その疾患特異的細胞外小胞を回収してsmall RNAseqを行い、小胞に含有するmiRNAの網羅的解析を行うこととした。このため、予算を繰り越して次年度使用を計画している。
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