研究課題/領域番号 |
19K08536
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
笹野 哲郎 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (00466898)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 心房細動 / 細胞外核酸 / 細胞外小胞 / セルフリーDNA / バイオマーカー / エクソソーム |
研究実績の概要 |
心房細動では血中の血中CRPやIL-6の上昇など、炎症反応が生じること。一方、心房炎症は心房細動の発症・進展に関連する因子でもあり、心房細動と全身および局所の炎症は互いに増悪因子としてvicious cycleを形成するものと考えられる。心房炎症が心房細動を進展させる機構は広く研究されているのに対し、心房細動が炎症を惹起するメカニズムは未解明であった。我々は、心房筋細胞から放出されるセルフリーDNA(cfDNA)、なかでもミトコンドリア由来セルフリーDNA (mt-cfDNA)がマクロファージに取り込まれ、非メチル化DNAを認識するTLR9を介してIL-6などの発現を誘導することを明らかにした。 この知見を展開させて、cfDNAが心房細動患者で高値を示し、末梢血サンプルから心房細動音の有無を推定できるかの多施設大規模検討を行った。計7施設から、発作性心房細動(PAF)群1305例、コントロール(Cont)群1163例を対象として末梢血の採血を行い、総cfDNAの定量を行った。その結果、血中cfDNAは、PAF群で0.254ng/uL、Cont群0.203 ng/uLとPAF群で有意に高値であった(p=0.011)。PAF群を予測するためのROC曲線ではArea under curve 0.570であった。以上より、血中cfDNAは一定の精度で心房細動を予測しうることが示された。 さらに、我々は心房筋から放出される細胞外小胞の定量法の確立と、心房細動症例における細胞外小胞の量的・質的変化を評価した。遠心分離による細胞外小胞の抽出過程を省き、レーザー回折散乱法による血漿サンプルからの細胞外小胞の定量を行うと、末梢血における細胞外小胞はPAF群で有意に高値であり、粒子径の最頻値にはPAF群、Cont群間で差はなかったものの、粒子数はPAF群が有意に高値であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 昨年までの知見を発展させて、多施設大規模検討を行った。ミトコンドリア由来セルフリーDNA (mt-cfDNA)の定量には定量的PCRが必要であるため、吸光度法による総cfDNAの定量を行った。総cfDNAは、定量が簡便であり施設間差が少ないが、疾患特異性は低下し、心房細動の予測能も低下することが予測された。しかし、総cfDNAでも心房細動群では有意に高値を示し、末梢血のcfDNA定量による一定の心房細動予測能を示すことができた。 2) 細胞外小胞を介した心筋細胞と脂肪細胞の相互作用の解明:in vitroの実験系において、心房筋細胞と脂肪細胞を共培養し、心房筋細胞に高頻度電気刺激を加えて脂肪細胞のサイトカイン産生を評価した。すると、高頻度電気刺激によってIL-6, Ccl2, TNF-aの発現が上昇していた。心房筋細胞を単独で培養し、高頻度電気刺激を加えると、コントロールに比べて細胞外小胞の放出量が有意に上昇した。放出された細胞外小胞を脂肪細胞に添加すると、脂肪細胞のIL-6およびCcl2の発現が亢進していた。以上より、心房細動時には心筋細胞から放出された細胞外小胞が隣接する脂肪組織の炎症を誘導する可能性が示された。 3) 心房細動における病態特異的細胞外小胞のプロファイル分析:心房筋細胞に高頻度電気刺激を加えた際に放出された細胞外小胞を回収し、内包されるマイクロRNAについて、small RNAseqで網羅的に評価した。電気刺激なしのコントロール群、低頻度電気刺激群においても同様にRNASeqを行い、比較検討を行った。その結果、脂肪細胞の分化誘導を促進するmiRNA群が高値になっていることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
1) 心房高頻度興奮時のミトコンドリア由来cfDNA放出機構の解明:心房筋細胞が高頻度電気刺激下でミトコンドリア由来cfDNAを放出するメカニズムについての検討を進める。現在、心筋細胞がストレス下でミトコンドリア自体を放出するメカニズムとその原因分子についての検討を行っている。 2) 心房細動における病態特異的細胞外小胞のプロファイル分析:昨年度行った網羅的解析によって、心房筋細胞から放出された細胞外小胞には脂肪細胞の分化誘導シグナルを亢進させる作用があることが明らかとなった。この細胞外小胞やマイクロRNAを間葉系幹細胞や脂肪前駆細胞に添加して、脂肪細胞への分化を評価する。 3) 疾患特異的細胞外小胞のバイオマーカーとしての有用性の検討:発作性心房細動症例では血中細胞外小胞が増加していることが明らかとなった。さらに、持続性心房細動や、合併疾患の多い患者での血中細胞外小胞の定量を行い、さらにフローサイトメトリーによる表面マーカー解析を行って細胞外小胞のプロファイルを評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
cfDNAの大規模多施設試験については、他の助成金を利用したことで予算を温存することが可能であった。一方、細胞外小胞については、心房筋細胞の高頻度刺激・低頻度刺激およびコントロールにおける細胞外小胞の抽出とsmall RNAseqによる網羅的解析を行ったが、細胞外小胞のクオリティコントロールに時間がかかり、最終的な結果が得られたのは年度末であった。本来はその後に同定したマイクロRNAにターゲットを絞って細胞への導入などの機能的解析を行う予定であったが、その予定が遅延することとなった。このため、予算を繰り越して次年度使用を計画している。
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