本研究は、ヒト胚性幹(ES)細胞で認められる非典型的なX染色体の不活化(XCI)が細胞分化にあたえる影響を調べることを目的とした。2019年度は、「生体型XCI機構をもつヒトES細胞を樹立」するために、ナイーブ型ヒトES細胞を樹立し、通常のヒトES細胞とあわせて、そのXCI動態評価に取り組んだ。その結果として、通常のヒトES細胞は生体型とは異なる非典型的なXCIをもつことを明らかにした。具体的には、2本のX染色体のうち1本のX染色体では、一部の領域で再活性化していた。一方で、この細胞をGSK3インヒビター、MEK-ERKシグナルインヒビター、PKCインヒビターおよびLIF存在下で培養し、ナイーブ型へと誘導すると、X染色体は2本ともに活性化されることがわかった。これは、ナイーブ型への誘導がX染色体を活性化するという既存の論文結果と一致する。また、申請者は、核内受容体として知られているX遺伝子を過剰発現させた細胞においても、X染色体の活性化状態を調べたが、過剰発現株では、先に述べた各シグナルのインヒビターを加えない培養条件下でも、不活性型X染色体が活性化されることをつきとめた。これらの結果は、ヒトES細胞においてXCIを人工的に解除できることを示している。本研究は、申請者の退職により2019年度の時点で廃止とした。
|