研究課題
レニン・アンジオテンシン系(RA系)は、循環器疾患や腎臓疾患に重要な役割を果たしている事が知られており、ゆえにRA系阻害薬は広く臨床の現場で使用されている。しかしながら、臓器障害においては現存するRA系阻害薬では効果が不十分であるという報告があり、また組織中のアンジオテンシンII(Ang II)生成機構についても不明な点が多い。これまで研究代表者らは、プロアンジオテンシン-12(proang-12)とビッグアンジオテンシン-25(Bang-25)といった新しいアンジオテンシン関連ペプチドを同定しており、それらのペプチドが組織中のAng II 生成機構に関連している可能性が高い事を示してきた。そこでBang-25について(1)生体内の分布(2)効果の確認(3)生成機構の解明と生成酵素の探索、を行う事で組織Ang II 生成機構を解明し、将来的な循環器・腎臓疾患の臓器障害における診断薬や治療薬開発へと臨床応用を目指す事を目的として行った。Bang-25の測定系であるAmplified Luminescent Proximity Homogeneous Assay(Alpha)LISA法を利用し、様々な疾患の尿中Bang-25測定を継続中である。これまで尿中のBang-25が血中よりも多い事が明らかとなった。さらにヒト尿中Bang-25は腎障害や糖尿病で上昇するが、尿タンパクや尿中アルブミンとは異なる病勢を反映している可能性がある事が明らかとなった。この成果は、現在、論文にまとめて投稿中である。また、Bang-25を含めたRA系の作用機序を解明するために胎盤や腎臓の培養細胞にBang-25を含めたRA系関連ペプチドを作用させてRA系因子の遺伝子発現や生成されるペプチドの検討を現在、進行中である。
2: おおむね順調に進展している
確立したBang-25のAlpha LISA法を用いて腎臓疾患、糖尿病、ICUの患者、腎生検の腎臓組織や心疾患、オペ前後の尿・血液を含めた尿検体のBang-25の測定を継続中である。その結果、Bang-25の尿中濃度は血中に比べて高い事がわかった。また、腎障害や糖尿病で尿中Bang-25が上昇する事が明らかとなった。さらに尿中Bang-25は尿タンパクや尿中アルブミンとは異なる病勢を反映している可能性があり、新しいバイオマーカーとして有用である可能性が示唆された。疾患モデル動物にBang-25を投与したところ血圧の変化は見られなかった。これは、Bang-25が循環RA系には関与していないからなのか、ヒトとの種の違いによるものなのかという点を今後、明らかにすべきである。また、培養細胞にレニン阻害剤などを反応させて現在、遺伝子発現の変化を検討中である。以上より研究目的(1)はおおむね達成できたといえるが、様々な疾患患者のBang-25の測定を引き続き行っている。さらに研究目的(2)については、Bang-25をラットに投与しても血圧の変化が見られなかった事から、これらの理由をこれから明確にしていく必要がある。また、研究目的(3)について胎盤や腎臓の培養細胞にレニン阻害剤などを加えて細胞内のRA系因子の遺伝子発現や生成されるペプチドの検討を行っている。以上より本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
研究目的(1)については、Bang-25の測定感度とサンプル処理法を検討して、簡便で高感度な測定系に改良し、引き続き尿検体を集めてBang-25の測定を行う。研究目的(2)については、Bang-25の投与がモデル動物の血圧に影響を及ぼさなかった事から、組織への移行性等をBang-25の測定系を用いて評価する。また、Ang I、Ang IIのようなRA系関連ペプチドの局在、および疾患重症度をコントロール動物と比較検討し、Bang-25の病態生理学的意義を解析する。研究目的(3)については、培養細胞を用いていくつかのプロテアーゼ阻害剤やRA系阻害剤のBang-25やRA系関連ペプチドにおける生成・変換活性に及ぼす影響を観察したので、引き続き生成・変換酵素に特異的なプロテアーゼ阻害剤を検索する。また生成および変換阻害活性を示す化合物を同定した後に、循環器および腎臓疾患モデル動物に阻害剤を投与し、血圧や臓器障害を含めた疾患病態に対する阻害剤の効果およびBang-25を含めたRA系因子の変化を観察する。次に疾患モデル動物から得られた血液や組織抽出液、さらに剖検、手術時に得られたヒト組織抽出液や血液、ヒトの培養細胞を用いてBang-25の生成能が高い組織や細胞を検索する。Bang-25の生成能の高い組織や細胞が明らかとなった場合には、Bang-25生成酵素の精製を試みる。
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