研究実績の概要 |
血管平滑筋細胞の収縮型(分化型)から合成型(脱分化型)への形質転換は動脈硬化疾患の重要な原因である。平滑筋ミオシン重鎖(Myh11)は平滑筋細胞の分化マーカーであり、主に細胞質に局在して平滑筋収縮に寄与する。申請者らは、1)マウスiPS細胞を用いた平滑筋分化誘導培養系構築と、2)合成型から収縮型平滑筋細胞へ移行する培養系構築に成功し、形質転換を制御するヒストン修飾酵素Nsd1を同定した。Nsd1の発現を抑制すると培養平滑筋細胞のMyh11発現と収縮性が亢進する。さらに、申請者らは家族性大動脈解離家系からMyh11遺伝子変異を見出し、遺伝子変異マウスの樹立に成功した。このマウスはストレス負荷により大動脈解離を高頻度で生じるなど血管病の表現型を呈する。 Nsd1発現抑制とMyh11発現亢進の間で作用する分子の解析を行った結果、bHLH型転写因子群がNsd1の下流として働きMyh11発現亢進を誘導することが判明した。 我々は平滑筋形質転換メカニズムをin vitroのみならずin vivoで解析するために、ホモ接合型のNsd1遺伝子欠損マウスを作出し、野生型、ホモ型マウスの表現型の比較を行った。 bHLH転写因子群に着目し、培養平滑筋細胞に対して発現抑制を行ったところ、Nsd1抑制と同様にMyh11発現亢進が確認された。これにより、Nsd1の下流としてMyh11発現を調節する遺伝子として、bHLH転写因子群が重要である事がわかった。 Nsd1遺伝子欠損マウスを大量に作出するために体外受精技術の新規確立を行った。ヘテロの卵と精子より体外受精を行ったところ、野生型、ヘテロ、ホモの割合は、32%, 47%, 21%であった。ヘテロの雄雌の交配ではホモ接合体はほとんど生まれてこなかったが、体外受精技術が確立したため、ホモ接合体の解析が可能になった。
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