研究実績の概要 |
拍動しつづける心臓はエネルギーを持続的に必要とし, 細胞の基本的なエネルギー基質であるアデノシン三リン酸(ATP) をもっとも多く必要とする臓器である. 常に動き続ける心臓のエネルギー代謝をリアルタイムにモニターすることはこれまで不可能であった. 我々は急激なATP濃度の変化を可視化するFRET蛋白質を利用してATP変動をin vivoで計測できるマウスを開発した. このマウスを用いて心臓のATP量を, 急性の負荷をかけて経時的に調べたところ, 心臓のATP濃度は酸素消費量の変化とともに変動することが分かった. 一方慢性変化では, これまでATPが低下していると考えられてきた心機能の低下した心筋症モデルの心臓でATP量に大きな変化は見られなかった. また低酸素状態にしても, 心臓のATP量はすぐには低下しなかった. これは我々が作成したATP可視化マウスが細胞質のATPを可視化するモデルであるためと考えられる. そこで我々はミトコンドリア特異的のATP可視化マウスを作製した. このマウスを低酸素に暴露すると, 心臓のミトコンドリアのATPは直ちに低下し, その低下は心拍数の低下と同時に起こることが観察された. 冠動脈結紮による急性の心筋虚血を引き起こすと, 細胞質ATP可視化マウスでは局所で著明なATPの増加を認める一方, ミトコンドリアATP可視化マウスでは虚血領域での著明な低下を認めた. この両者のATP可視化マウスを様々な病態モデルで観察することにより, 拍動状態の心臓において, 虚血や外的負荷ストレスに対するATPの産生と消費, 蓄積と枯渇が, 可視化でき, さらにカテコラミンやβ遮断薬などの心不全治療薬によるATPの動態をみることにより, 心不全治療への新たな創薬に繋がる可能性がある.
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