研究実績の概要 |
最終年度の実施研究において、前研究で分子機能異常をもつことを同定したCSRP1ヒト一アミノ酸変異体の細胞機能への影響についてin vitroでのRNA-seqによるトランスクリプトーム解析を行い、その病的意義について網羅的な検討を行った。蛍光ラベルした野生型と同変異型のCSRP1及び拮抗的な働きを持つファミリー遺伝子CSRP2を同レベルで定常発現するH9C2細胞をレンチウイルスベクターを用いて作製し、同解析により遺伝子発現プロファイルデータを得た。解析データの検討から、CSRP1,2間で心血管関連遺伝子や応答関連遺伝子、増殖関連遺伝子の遺伝子発現への作用に違いが見られる事、同変異体ではこれらの遺伝子発現で明らかな発現レベルの異常を来すものを認める事を見出した。これまでの本研究の結果も含め、同変異はCSRPのターゲットとなる遺伝子発現や細胞増殖能、細胞内局在に異常を来し、明らかに異常機能を持つ変異である事がin vitroのデータから示される。同ヒト変異は遺伝性疾患が指摘されている変異ではないが、上記in vitroでの検討から、そのような変異でも有意な機能異常を有する事が示された。in vivoや個体レベルでの影響についてさらに検討する必要はあるが、他の遺伝子を含めゲノムデータベース上に多数認める、病的影響が現状不明な塩基変異においても、潜在的な病的遺伝素因やリスク要因となっているものが存在する事を示唆しており、特にそれらのうちどの変異が有意な病的機能異常を来すかが明らかになる事が重要と考えられた。ゲノム上にはコーディング領域も含め多種の塩基変異があり、biologicalな検討により実際の機能異常を評価する必要があるが、全変異の個別的な検討には限界もあり、有意な病的変異を網羅的に同定するようなin vitroでのアプローチは必要と考えられることから、その手法及び解析系の構築に着手した。
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