研究課題
心不全の予後は未だ不良であり、重症化した場合は心臓移植以外に根本的な治療がないのが現状である。近年、心不全を発症した心筋細胞では断片化されたDNAの蓄積だけでなくDNA損傷応答(DDR)活性化を認めており、DDRに誘導される炎症性サイトカイン活性が心不全悪化を促進し、心不全病態形成においてDDR活性化が重要な役割を果たしていることが明らかとなっている。しかし、心不全病態形成においてDDR活性化を制御する詳細な分子機構は十分に解明されていない。本研究では、DDR制御関連遺伝子改変マウスを用いてモデルマウスを作製し、心不全病態形成におけるDDR活性制御の詳細な分子機構の解明を行い、DDR不活性化による心不全病態の進展を遅延、あるいは阻止する新たな治療戦略の開発に繋がる研究を行う。令和元年度の研究実績は、CTG1欠損マウス、心筋特異的CTG1欠損マウスを樹立させ、これらを用いて圧負荷心不全モデルを作製し、検討したところ、CTG1欠損マウス、心筋特異的CTG1欠損マウスのどちらとも、コントロールに比べ、明らかな心不全病態形成の抑制を認めた。さらに、CTG1欠損マウスにDOX心筋症モデルを作製し検討を行ったところ、コントロールに比べ、明らかな心機能低下の抑制を認めた。心不全病態において心筋細胞でCTG1の欠損によって、心筋でのDDRが抑制され、心保護効果の可能性が示唆された。今後さらなる検討を行う。心筋特異的CTG1過剰発現マウス作製を2回試みたが、樹立できなかった。薬剤誘導性Tgマウスの作製を検討する。Trp53cor1KOマウスを用いて心不全モデルを作製、検討したところ、コントロール群と比べ、心不全病態形成の抑制は認めなかった。
2: おおむね順調に進展している
本年度は予定通り、DDR関連遺伝子マウスを解析し、心筋特異的遺伝子欠損マウスも作製した。さらにDOX心筋症も作成し、結果が得られた。おおむね順調に進展していると考えている。
(1)DDR関連遺伝子改変マウスを用いた心不全モデルの表現型解析とDDR経路の発現解析:DDR関連遺伝子としてCTG1およびHmgb2の改変マウスを用いて心不全病態形成におけるDDR経路(ATM-p53-p21)の発現解析、DOX心筋症モデルによる心保護作用のメカニズムについて引き続き解析を引き続き行う。(2) 心筋培養細胞を用いた解析:ラット初代心筋初代培養、ヒト初代心筋培養細胞、ヒトiPS 細胞分化心筋細胞(MiracCellTM,TakaraBio)を 用いてCTG1 のsiRNA を用いた発現抑制によるATM-p53-p21 経路の発現解析、DNA 損傷解析を進める。(3) 当大学医学部細胞病理学分野に保管されているヒト剖検で死因が慢性心不全、非慢性心不全の症例の心組織を準備し、免疫染色、in situ hybridization による解析を行う。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 3件)
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