心不全の予後は未だ不良であり、重症化した場合は心臓移植以外に根本的な治療がないのが現状である。近年、心不全を発症した心筋細胞では断片化されたDNAの蓄積だけでなくDNA損傷応答(DDR)活性化を認めており、DDRに誘導される炎症性サイトカイン活性が心不全悪化を促進し、心不全病態形成においてDDR活性化が重要な役割を果たしていることが明らかとなっている。しかし、心不全病態形成におけるDDR活性化を制御する詳細な分子機構は十分に解明されていない。これまでの結果より、圧負荷心不全(TAC)モデルマウスを用いて心不全病態形成において心組織のCTG1の発現上昇を認め、またCTG1欠損マウス及び心筋特異的CTG1欠損マウスを用いたTACモデル、さらにドキソルビシン心筋症モデルにおいて、コントロールに比べ、心不全病態形成及び進展の抑制を認めた。以上より心不全病態形成において心筋細胞のCTG1の欠損によりDDR活性化が抑制され、心保護作用の可能性が示唆された。令和3年度は、上記の結果よりマウス及びラット心筋細胞株を用いてさらなる解析検討を行った。siRNAを用いてこれらの心筋細胞株のCTG1をノックダウンさせるとp21の発現増加を認め、逆にCTG1強制発現ベクターを用いてCTG1を強制発現させるとp21の発現減少を認めた。心不全病態形成におけるATM-p53-p21経路を介したDDR活性化における心筋のCTG1の作用機構について、今後、詳細な検討が必要である。
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