研究課題
心臓における線維芽細胞は線維化に関与しているだけでなく、様々なサイトカインや成長ホルモンを介して心筋細胞に直接作用し、細胞収縮や肥大、さらには細胞生存性を制御することが明らかになっている。研究代表者は先行研究にて、プロスタグランディンE(PGE)受容体EP4欠損マウスではWildマウス(コントロール)と比較し、アンジオテンシンⅡ負荷による心臓の線維化が著しく亢進していることを見出した。そのため、我々はEP4が心臓において線維化を調整する有力な新規調節分子であるとの着想に至った。また、EP4を刺激することで、セカンドメッセンジャーとしてよく知られている細胞内カルシウム濃度が上昇することから、EP4の生理機能は細胞内カルシウム濃度の調節を介して行われていることが示唆された。本研究では、EP4受容体がカルシウムシグナルを介して心臓線維化の強力な新規調節分子として働いていることを証明し、心臓線維化への作用を細胞内シグナル伝達を中心に解析する。最終目標は、EP4を制御することで、心臓の線維化の進行を抑制する初めてのEP4作動薬の開発への基盤となる知見を得ることである。
2: おおむね順調に進展している
EP4刺激薬により心臓線維芽細胞の細胞内カルシウム濃度が速やかに上昇することをカルシウム感受性色素であるFura2を用いて確認した。また、EP4ノックアウトマウスからとった心臓繊維芽細胞にEP4刺激薬で刺激しても、細胞内カルシウムの濃度の上昇は、Wildマウスの心臓線維芽細胞と比較し、有意差を持って抑制されることがわかった。また、研究の過程で、抗がん剤のひとつであるドキソルビシン(DOX)が心臓線維芽細胞の活性型である心臓筋芽細胞へ形質転換を起こすことを見出した。それに伴い、炎症サイトカインであるIL-6やマトリックスメタロプロテアーゼ1(MMP1)の分泌が亢進することも確認した。現在は、その現象がEP4受容体を介しているかの検討を行っている。In vivoの実験では、DOX負荷によるマウス線維化モデルで、DOXにより線維化が亢進することを確認した。培養細胞と同様に、in vivoでもEP4受容体との関連を検討している。
抗がん剤であるドキソルビシン(DOX)投与により、臨床でもDOX心筋症による心不全を発症し、抗がん剤治療を続けられない患者さんが多くいる。本研究の過程で心臓線維芽細胞に於いて、プロスタグランデイン受容体のひとつであるEP4受容体が心臓の線維化に強く関与していることが示唆された。DOXで刺激することで培養心臓線維芽細胞において、心臓線維芽細胞の活性型である心臓筋芽細胞への形質転換が起こることが分かった。また、DOX負荷線維化マウスモデルを作成し、実際に心臓線維化が起こることを確認した。最終年度はEP4と心臓線維化についての関係を、DOXとの関係も含めて分子生物学的手法を使ってより詳細に検討する。
今年度は、主に培養心臓線維芽細胞を用いたウエスタンブロッティングやPCRなどの基礎的実験が多く、年度の始めに購入した試薬で実験ができた。最終年度は動物実験なども予定しており、消耗品、動物実験関連の支出が予想されるために次年度使用額が生じた。
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