研究課題/領域番号 |
19K08583
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
岡本 貴行 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 准教授 (30378286)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 血管内皮細胞 / 細胞硬化 / 炎症 / 細胞骨格 / ギャップ結合 / メカノバイオロジー |
研究実績の概要 |
動脈血管の弾性増加(硬化)は心血管イベントの発症リスクになることから、血管自体の硬さ変化が血管障害(病的血栓形成と慢性炎症)を引き起こす要因となりうると考えられる。我々は血管、とくに血管内皮細胞の硬さに着目し、これまでに炎症時に血管内皮細胞自身が硬化し、この細胞硬化が単球の接着を亢進することを明らかにした。また、硬化血管組織と同等の環境下ではマクロファージの炎症性分化が促進することを報告してきた。これら一連の研究から血管内皮細胞や組織の硬さと血管内皮機能が連携していると予測する。本研究課題では血管内皮細胞硬化に伴い細胞機能がどのように変化するか、その分子機構を明らかにすることを目的とする。 昨年度では、メカニカルストレスや細胞骨格の編成に応じて活性化される転写共役因子Yes-associated protein (YAP)に注目し、血管内皮細胞では炎症刺激時にYAPは活性化され、YAPの活性化が細胞の硬さを決定することを見出した。令和2年度ではYAPが誘導する細胞内シグナル伝達の同定を試みた。その結果、YAPの活性化に反比例してDLL4(Delta-Like Protein 4)の発現量が変化し、血管内皮細胞の遺伝子発現を制御することを見出した。さらに、YAP-DLL4-Notch1シグナル系が血管内皮細胞を形態を伸長し、また、血管内皮増殖因子受容体、炎症性サイトカイン、血液凝固因子および制御因子の遺伝子発現を制御することを明らかにした。 以上のことから、我々は細胞硬化に伴うYAP活性化が血管内皮細胞を調節する制御分子であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在の新型コロナウィルスの感染拡大により外部機関での実験を実施することができず、当初の予定を変更して取り組んでいる。その中で細胞硬化と細胞機能の両者を制御しうるシグナル伝達を明らかにできたことで、本研究課題は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度では、細胞硬化に伴い誘導される遺伝子発現を調節する分子機構の同定に成功した。この分子機構が同定できたことで、最終年度ではこの経路を中心として、細胞の硬さ変化と細胞機能がどのように調節されるか、その詳細な検討を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度では、所属施設の改修工事、カリキュラム変更により初年度から繰り越した研究費が使用可能であり、当初の予定額以上の予算となった。新型コロナウィルスの感染拡大により、実施内容は変更を余儀なくされ、購入希望の試薬や器具の購入が一部叶わなかったため、最終年度に繰り越して当該試薬等の購入に使用させていただく予定である。さらに最終年度では論文の投稿を積極的に取り組む予定である。繰り越す予算の一部は論文が学術誌に掲載された際の掲載費用などとして使用させていただく予定である。
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