研究課題
糖尿病の最大の合併症は血管病であり、その予防が糖尿病患者の予後改善に不可欠である。血管内皮機能障害は血管合併症の初期段階であり、可逆的であるために治療標的とされているが、現在の血糖降下を目的とする糖尿病治療では、その予防・治療効果は不十分である。我々は、高血糖が引き起こす慢性炎症が血管内皮機能障害を発症させるメカニズムとして、自然免疫機構である核酸受容体を介した炎症に注目し研究を行っている。初年度は、主な核酸受容体であるToll 様受容体9(TLR9) やstimulator of IFN gene(STING)の欠損マウスにおいて、ストレプトゾトシン(STZ)によって糖尿病を誘導すると、アセチルコリンによって誘導される血管弛緩反応は、野生型マウスに比べて悪化しないことが分かった。この結果は、糖尿病で引き起こされる血管障害によって、遊離する核酸断片が、血管内皮細胞における核酸受容体を活性化して、炎症を惹起し、血管内皮機能障害を引き起こすことを示唆している。これまで、糖尿病性血管機能障害における核酸受容体の役割については報告されておらず、今回得られた結果は、糖尿病性血管機能障害の新規治療標的を示唆するものと期待している。現在は、高血糖で核酸受容体が活性化されるメカニズムを、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)を用いて、TLR9やSTINGのアゴニストによって炎症性物質等の発現が変化するかどうかを検討しており、核酸受容体が、血管内皮細胞における炎症性物質の発現や炎症シグナルに関与するか検討中である。
2: おおむね順調に進展している
初年度は主に、TLR9欠損マウスとSTING欠損マウスを用いて、糖尿病条件下における、血管内皮機能障害の差を検証する予定としていたことから、研究の進捗状況は順調と考えている。また、予定通り、血管内皮機能障害特異的DNase II欠損マウスの作製も開始しており、2年次の検討に用いる予定である。また、HUVECに対してTLR9やSTINGのアゴニストやアンタゴニストを作用させるin vitro実験も開始しており、これらの核酸受容体の活性化が、血管内皮細胞における炎症を惹起することも確認できた。以上より、研究計画は概ね順調に経過していると考えている。
血管内皮機能障害特異的DNase II欠損マウスを用いて、内皮細胞における遊離核酸増加が、糖尿病性血管内皮機能障害に与える影響を明らかにする。STZ以外にも肥満誘導性の糖尿病モデルにおいても、血管内皮機能障害に核酸受容体が関与するか検討する。高血糖で核酸受容体が活性化されるメカニズムを、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)を用いて検討しており、核酸受容体が、血管内皮細胞における炎症やそのシグナルへの関与を検討する。さらに、核酸受容体の活性化メカニズムを明らかにすることで、そこを標的とした、糖尿病性血管機能障害の新規治療方法の開発を目指したい。
[理由]他業務の都合を調整できず、当初参加を予定していた国際学会(アメリカ心臓協会国際学会)に参加できなかった。また、コロナウイルス問題で国内学会(日本循環器学会)は延期されたため、参加できなかった。これらの理由で、差額が生じました。[使用計画]次年度助成金と合わせて欧州心臓病学会や上述の学会に参加して、積極的にデータの発表と情報収集を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (30件) (うち国際学会 10件)
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