研究実績の概要 |
ヒトの術中組織において炎症性サイトカイン、成長因子、幹細胞マーカー、心臓転写因子などを解析したところ、左房の拡大に伴いANP,BNPおよび転写因子のmRNAの上昇がみられた。このうちANPおよびislet-1にターゲットを絞り、これらの因子を導入した。 まず左房組織のexplant培養を行い、ヒト心臓組織由来の細胞を培養した。まずANPおよびislet-1をelectroporation法にて細胞導入を試みた。導入効率を確立するため条件設定を行ったが細胞の種類によって異なっていた。これはこの細胞群がheterogeneousなpopulationであることが原因と考えられた。そこでリコンビナントのANP(HANP)を培地に混入することとした。条件設定を行ったところある濃度にて混入群と非混入群で有意な違いが得られた。ANP混入群では非混入群に比べて1週間後の細胞数が17%減少した。一方、ANPでは細胞塊の形成が多くみられた。免疫染色を行ったところ細胞塊はCD31+/cKit+であった。これはANPにより細胞の血管内皮へのmaturationが増加したことが考えられた。次にislet-1のリコンビナントを同細胞に混入、その後低酸素チャンバーにて1週間培養を行った。1週間後にTUNEL染色にてアポトーシスの細胞数を総核数の比率で算出したところ、リコンビナントタンパク混入群でTUNEL陽性細胞が53%減少していた(p<0.05)。次いでラットの心筋梗塞モデルで梗塞エリアを解析したところ、リコンビナント細胞投与群で梗塞範囲が23%減少した。免疫組織染色ではKi67陽性細胞が30%増加した。これらの結果から心筋傷害時に上昇する因子は、ヒト組織幹細胞を活性化するとともに抗アポトーシスの作用から心筋を保護する可能性が示唆された。
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