研究課題/領域番号 |
19K08592
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
吉村 道博 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (30264295)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 心不全 / 虚血性心疾患 / ナトリウム利尿ペプチド / 酸化ストレス / 耐糖尿障害 / 貧血 / 共分散構造分析 / ベイズ推定 |
研究実績の概要 |
臨床医学研究では、数多くの事象が複雑に絡み合っている場合が多く、目的とする事象に対してそれを数学的に解きほぐすことは一般的に難しい。現代では様々な数理統計学が駆使されるようになってきているが、我々は共分散構造分析(Covariance Structure Analysis または Structure Equation Modeling) による構造方程式モデリングを導入している。この手法は臨床医にとって有利な手法である。なぜならば、数多くの臨床経験に基づいてその概念をパス図を用いて表現することができるからである。一方で昨今、全く異なる統計学的視点からベイズ推定が用いられることが多いが、このベイズ推定を構造方程式モデリングに付加することも可能であり、極めて有効な手法であると我々は認識している。 本研究には膨大なデータベースの構築が必須である。現在我々は基本的臨床情報のみならず心臓カテーテル検査で得られるデータ、および内分泌代謝系の指標を入力し、さらにその数を増やしている。特に、心機能に関しては右心系や左心系の血行動態指標や心臓形態などを詳細に調べており、さらにはナトリウム利尿ペプチド(特にBNP)の動態に注意を払っている。 本研究の具体的なテーマとしては、各種循環器疾患、特に心不全、虚血性心疾患の病態解析である。それらの病態を様々な角度から数理統計学的に分析することである。 一方、臨床研究の成果を裏打ちする為には基礎研究が必要である。仔ラット初代心筋培養系やマウスのLangendorf摘出心灌流モデル、さらに分子生物学的な検討を加えることで病態を解析し、さらにその結果を再び臨床研究にフィードバックすることを目指している。 基礎研究としては、ナトリウム利尿ペプチドと食塩、糖、脂質との関連を検討しており、エネルギー代謝並びに体温保持機構の研究、さらには尿酸研究も行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該臨床研究においては膨大なデータを正確に蓄積していく必要がある。現在、症例数約6000例に対して検討項目を増やして入力作業を続けている。統計手法として構造方程式モデリングにさらにベイズ推定を付加することで詳細に検証を行っている。 当該研究に関連した成果報告として次のものがある。「急性冠症候群における糖利用促進と血清カリウム値低下の関係性について検討し、インスリン抵抗性状態でも未知の機序で糖利用が亢進することを示した(Sci Rep 2019)」、「腎不全、貧血、そしてナトリウム利尿ペプチドの関係性について検討し、貧血のナトリウム利尿ペプチドに対する直接的な関係性を示した(BMJ open 2019)」、「冠動脈の血管トーヌスと内因性ナトリウム利尿ペプチドの関係性について検討し、心不全の際には代償的にBNPが冠動脈のトーヌスを低下させていることを示した(Sci Rep 2020)」、「脂質酸化(マロンジアルデヒド修飾LDL)と高血糖の関係性について検討し、高インスリンよりも高血糖が脂質酸化に強く影響することを示した(Diabetes Res Clin Pract 2020)」などである。 基礎研究としては、マウス摘出灌流心を用いた実験系において、虚血再灌流障害におけるナトリウム依存性グルコース輸送体1(SGLT1)の機能の重要性を報告した(Cardiovasc Diabet 2019)。
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今後の研究の推進方策 |
臨床研究としては引き続き共分散構造分析とベイズ推定を用いて検討を行う。データベースのさらなる充実を図り、それを用いて多彩な解析を続ける。具体的には、心不全と酸化ストレスの関係にナトリウム利尿ペプチドが如何に保護的に作用しているかを検討する。また、エネルギー代謝の観点から体温とナトリウム利尿ペプチドの関係性について検討を行う。また我々は、心源性ショックに至った症例に対して低体温療法を行う事があるが、その際の各種ホルモンの動態を検討する予定である。急性冠症候群や心不全における血算、特に血小板と白血球(およびその分画)の変化を詳細に検討する予定である。 基礎研究においては、仔ラット心筋初代培養系、Langendorf摘出心灌流システム、各種の分子生物学的手法を用いて検討を継続する。現在、肥満マウスを作成しており、それに対するナトリウム利尿ペプチドの持続投与の影響を調べる予定である。特に心臓局所における変化を生化学および病理学的に検討する。また一部は電子顕微鏡を用いた分子病理学的な解析も視野に入れてその準備を行なっている。心筋のミトコンドリアに焦点をあてて形態を詳細に解析する予定である。一方、尿酸の基礎研究も実施しており、心臓におけるキサンチンオキシダーゼと心機能の影響を動物モデルで検討予定である。
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