研究実績の概要 |
臨床および基礎研究を実施して以下の成果を得た。 (1)動物実験を用いた基礎研究として、A型ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の投与が脂肪組織の褐色化を誘発し、in vivoで熱産生作用を発揮することが示された(Sci Rep 11, 17466 (2021))。本研究では、高脂肪食(HFD)マウスに対して外因性にANPを持続投与することで、脂肪肝が軽減され、また、脂肪組織の褐色化が誘発されることによってインスリン抵抗性が改善することが示された。さらに、低温環境下でのin vivoでのANPの熱発生作用(保温効果)も示された。本研究にて、ANPが心臓と脂肪組織との臓器間代謝クロストークを調整し、エネルギー代謝において有利に作用することが示唆された。 (2)心不全症例群を用いた臨床研究として、遊離トリヨードチロニン(FT3)の低値はB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の高値と関係することが示された(Sci Rep 11, 21865 (2021))。本研究では、甲状腺機能と心血行動態の関係を加味しつつ、甲状腺機能とBNPの関係性に焦点をあてて解析を行ったものである。構造方程式モデリングにより理論的にパス図を構築して検討した。まず、全症例を用いた解析では左室収縮率(LVEF)とBNPには逆相関が見られ、FT3とBNPにも逆相関が見られた。次に正常範囲のBNP(18.4pg/ml以下)群のみを用いた解析では、LVEFとFT3の関係性は消失したが、BNPとFT3の有意な関係性は維持されていた。心不全症例群の高BNPと低FT3の間には有意な関係性があり、この関係性は正常なBNP群のみの場合でも認められたことから、低T3は心血行動態の悪化を介すること無く高BNPと密接に関係していると考えられる。
|