研究実績の概要 |
川崎病の冠動脈瘤に続発する冠動脈狭窄の機序や制御機構について焦点をあてた基礎研究である。申請者らはLactobacillus casei細胞壁菌体成分(LCWE)によりマウス血管炎を誘導できるモデルを確立している。本モデルはLCWEをマウス腹腔内に投与すると著明な冠動脈炎が惹起後に引き続いて冠動脈の狭窄をきたす。本研究では、本マウス冠動脈狭窄モデルを用いた狭窄機序の解明や狭窄防止を観点とした候補薬剤を試みることが最大の目的である。初年度は本モデルマウスの経時的変化と冠動脈狭窄の定量的評価法の確立を行った。LCWE投与16週後に冠動脈の狭窄がピークと最も強くなることが明らかとなった。翌年度は、候補薬剤の投与による狭窄抑制作用についての検証を行った。まず、5週齢、雄のC57BL/6LマウスのLCWE1000μgを腹腔内投与後、冠動脈炎と内膜形成が起こり始める2週後より、抗炎症作用や血管平滑筋細胞増殖抑制効果を有する全トランス型レチノイン酸(atRA)の経口投与(胃管による強制内服)を開始し、週5回、14週間の投与を行った。コントロール群は溶媒に使用したコーン油の投与を行った。LCWE投与後にatRAを使用した群では、冠動脈の炎症スコア(19.3±2.8 vs 4.4±2.8, p<0.0001)と冠動脈狭窄率(100% vs 18.5%, p<0.05)共に有意に抑制した。血管平滑筋細胞を用いた遊走実験においてもatRAは有意に血管平滑筋細胞の遊走を抑えることが示された。atRAは冠動脈瘤を伴う川崎病患者の冠動脈狭窄を抑制できる候補薬剤の一つとなることが期待される。
|