研究課題/領域番号 |
19K08600
|
研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
藤澤 朋幸 浜松医科大学, 医学部, 助教 (20402357)
|
研究分担者 |
鈴木 哲朗 浜松医科大学, 医学部, 教授 (00250184)
須田 隆文 浜松医科大学, 医学部, 教授 (30291397)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 粘液線毛輸送系 / 線毛機能 / TLR3 / インフルエンザウイルス / polyI:C |
研究実績の概要 |
本研究では,TLR3を介した気道における粘液線毛輸送系の促進機序を解明すべく,マウス気管組織培養系と線毛機能のイメージング解析法を用いて,polyI:C(TLR3リガンド)添加ならびにインフルエンザAウイルス(IAV)感染による線毛輸送能・線毛活性の変化を解析した. 野生型マウスより採取した気管の組織培養において,poly:C添加により,気道上皮の流体移動速度ならびに線毛打頻度(ciliary beat frequency: CBF)は有意に増加した.一方,TLR3欠損マウスでは,polyI:C添加による流体移動速度・CBFの増加作用は消失した.こられの結果より,polyI:CはTLR3を介して線毛輸送能ならびに線毛活性の促進することが明らかとなった. 次に,TLR3で認識されるIAVをマウス気管上皮に感染させた後,気道の線毛輸送能・線毛活性の変化を解析した.野生型マウスにおいて,IAV感染は,気道上皮の流体移動速度ならびにCBFを有意に増加させた.一方,TLR3欠損マウスでは,IAV感染による流体移動速度・CBFの増加作用は消失した.以上の結果より,IAV感染はTLR3を介して気道上皮の線毛輸送能ならびに線毛活性を促進することが実証された.このIAV感染における線毛機能の促進作用は,ウイルス感染に際して気道内に侵入したウイルスをいち早く体外へ排泄すべく生体が兼ね備えた生体防御機構と位置づけられ,極めて興味深い知見と考えられた.さらに,TLR3活性化を介した線毛機能の促進作用のメカニズムにつき解析をすすめ,TLR3刺激により気道上皮におけるATP放出が増加し,放出されたATPはP2Rを介して線毛運動を促進することを見出した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の研究では,polyI:CはTLR3経路を介して気道上皮における線毛輸送能ならびに線毛活性を促進することを同定した.また,2020年の研究により,インフルエンザAウイルス感染はTLR3を介して気道上皮の線毛輸送能ならびに線毛活性を促進することを同定した.以上より,インフルエンザAウイルスとpolyI:Cは,いずれもTLR3を介する機序により線毛機能を促進することが示された.次に,TLR3活性化による線毛機能促進のメカニズムにつき解析をすすめた.線毛運動の促進機序として,細胞外に放出されたATPはP2受容体ファミリーで認識され,線毛運動を促進することが知られている.そこで,TLR3を介する線毛機能の促進作用における細胞外ATP放出の関与を検証するため,マウス気管組織培養へpolyI:Cを添加し培養液中ATP濃度の変化を測定した.その結果,polyI:C添加によりATP濃度の上昇が確認された.また,TLR3欠損マウスより採取した気管組織では,polyI:C添加によるATP濃度の上昇はみられず,polyI:CによるATP放出はTLR3を介する応答であることが明らかとなった.さらに,polyI:C添加により細部外に放出されたATPがP2受容体を介して線毛機能の促進に寄与するか検証するため, P2受容体アンタゴニストを添加して線毛輸送能・線毛活性を解析した.その結果,P2受容体アンタゴニストの添加により,polyI:Cによる線毛輸送能・線毛活性の促進作用は消失した.以上より,TLR3活性化による線毛機能の促進には,細胞外ATP放出と引き続くATP-P2受容体経路が関与することが明らかとなった.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では,TLR3を介した気道における粘液線毛輸送系の促進機序を解明すべく,マウス気管組織培養系と線毛機能のイメージング解析法を用いて,polyI:C(TLR3リガンド)添加ならびにインフルエンザAウイルス(IAV)感染による線毛輸送能と線毛活性の変化を解析した. これまでの研究により,polyI:CならびにインフルエンザAウイルス感染によるTLR3活性化は、気道上皮の線毛機能を促進しすることが明らかとなった。また,その機序には、TLR3活性化による細胞外ATP放出と、それに引き続くATP-P2受容体経路が関与することが示された. 今後は,TLR3以外のTLR活性化が、TLR3と同様に線毛機能の促進作用をもたらすか否かを中心に研究を進めることを計画している。まず,種々のTLRリガンドをマウス気管組織培養系に添加して,線毛輸送能ならびに線毛活性に与える変化を解析する.さらに, polyI:C(TLR3リガンド)の他に線毛機能を活性化するTLRリガンドが同定されれば,それに対応したTLRノックアウトマウスより採取した気管組織培養を用いて線毛輸送能・線毛活性を評価し,線毛機能促進に関わるTLRファミリーを同定する.さらに,種々のTLRによる線毛機能促進に関わる細胞内メカニズムに関して,解析を進める予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は,比較的実験が順調に進み,当初の予定と比較してマウス飼育費等を抑えることができ,そのため次年度使用額が生じた.2021年度は,TLR3以外のTLRリガンドによる線毛輸送系促進のメカニズム解析を主体に研究を継続する計画である.2020年度には,野生型,TLR3ノックアウトマウスに加えて,他のTLRノックアウトマウス(TLR2ノックアウトマウス,TLR4ノックアウトマウスなど)の飼育維持をはじめ,ウイルス実験関連の試薬など物品の購入に多くの研究費が必要となることが予想される.そのため,2020年度助成金も合わせて活用し,研究をすすめてゆく予定である.
|