研究課題
TLRを介した粘液線毛輸送系の促進機序を解明すべく,TLR3経路に着目して,polyI:C添加ならびにインフルエンザAウイルス(IAV)感染による線毛輸送能・線毛活性の促進作用を,マウス気管組織培養系と線毛運動のイメージング解析法を用いて解析した.野生型マウスより採取した気管の組織培養において,poly:Cにより,気道上皮の流体移動速度と線毛打頻度(ciliary beat frequency: CBF)は有意に増加した.一方,TLR3欠損マウスでは,polyI:Cによる流体移動速度・CBFの増加作用は消失した.同様に,IAVをマウス気管上皮に感染させた後,気道の線毛輸送能・線毛活性の変化を解析した.野生型マウスにおいて,IAV感染は,流体移動速度とCBFを有意に増加させた.一方,TLR3欠損マウスでは,IAV感染による流体移動速度・CBFの増加作用は消失した.以上より,polyI:CならびにIAV感染は,TLR3経路を介して気道上皮の線毛輸送能・線毛活性を促進することが明らかとなった.さらに,TLR3経路を介した線毛機能の促進メカニズムを解析し,TLR3刺激により気道上皮におけるATP放出が増加し,放出されたATPはP2Rを介して線毛運動を促進することを見出した.これらの結果は,ウイルス性呼吸器感染に際して気道内に侵入したウイルスをいち早く体外へ排泄すべく生体が兼ね備えた生体防御機構と位置づけられ,極めて興味深い知見であった.さらに,喘息やCOPDなどの慢性気道疾患に用いる治療薬剤が線毛輸送能・線毛活性に与える作用を解析した.マウス気管組織培養系において,長時間作用性抗コリン薬(LAMA)であるチオトロピウムまたはグリコピロニウムの添加は,流体移動速度ならびにCBFを有意に増加し,LAMAは気道の線毛機能を促進させることを見出した.
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